山本由伸はなぜ完投できたのか
山本由伸投手は2025年10月、ナ・リーグ優勝決定シリーズ第2戦でメジャー初完投を記録し、続くワールドシリーズ第2戦でも9回1失点、105球で完投しました。ポストシーズンでの2試合連続完投は2001年のカート・シリング投手以来です(出典:MLB.com)。
ただし、完投できた理由を一つの練習法や「驚異のスタミナ」だけに結びつけることはできません。投球の再現性、球種の使い分け、試合展開、本人のコンディション、捕手や首脳陣の判断などが重なった結果です。プロの独自トレーニングを子どもが自己流でまねするのではなく、育成年代では「投げ過ぎない」「痛みを隠さない」「疲労時にフォームを崩したまま続けない」という原則を学びましょう。
2度の完投で確認できる事実
| 試合 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 2025年10月14日 NLCS第2戦 | ブルワーズ戦で9回を投げ、メジャー初完投 | 初球本塁打の後を立て直した |
| 2025年10月25日 ワールドシリーズ第2戦 | ブルージェイズ戦で9回1失点、105球 | 20打者連続アウトで試合を終えた |
MLB公式の分析では、ワールドシリーズ第2戦で山本投手が6種類の球種を使い分けたことも紹介されています。少ない力で投げれば自動的に完投できる、特定のエクササイズをすれば故障しない、といった単純な因果関係ではありません。

「投げない勇気」を育成年代の安全に置き換える
完投はプロの試合での成果であり、少年野球で完投を目標にする根拠にはなりません。全日本軟式野球連盟は、学童部について1日70球以内(4年生以下は60球以内)に加え、2026年から1週間210球以内(4年生以下は180球以内)という試合での制限を導入しました(出典:全日本軟式野球連盟)。所属大会・地域・年代の規定がさらに厳しい場合は、そちらを守ります。
球数上限は「そこまで投げてよい」というノルマではありません。ブルペン、キャッチボール、他ポジションからの送球も肩肘への負荷になります。痛み、しびれ、動きの変化、強い疲労があれば球数内でも中止し、必要に応じて医療機関へ相談してください。
試合・練習前の確認表
- 当日だけでなく、直近1週間の試合投球数を記録したか。
- 肩、肘、背中、腰に痛みや違和感がないか、本人に聞いたか。
- 睡眠不足、発熱、食欲低下、暑さによる体調不良がないか。
- 投手以外の守備、ブルペン、練習での投球負荷も共有したか。
- 交代役を用意し、本人が「痛い」「今日は難しい」と言える雰囲気があるか。
量ではなく、元気な状態での再現性を確認する
「再現性」は、同じ場所へ何球も投げ込むことではありません。疲労が少ない状態で、無理のない動きを繰り返せるかを観察する考え方です。球速や結果だけでなく、次のような変化を見ます。
| 観察点 | 続けられる目安 | 止めて確認する変化 |
|---|---|---|
| 表情・返答 | 普段どおり話せる | 反応が鈍い、顔色が悪い、ぼんやりする |
| フォーム | 無理なく同じリズム | 腕が下がる、体が早く開く、バランスを崩す |
| 身体 | 痛みやしびれがない | 肩肘の痛み、しびれ、可動域の違和感 |
| 制球 | 普段の範囲 | 急に大きく乱れ、休んでも戻らない |
独自トレーニングをまねる前に
山本投手がやり投げに似た動作や「BCエクササイズ」と呼ばれる方法に取り組んでいることは報道されています。しかし、その名称だけでは、個々の動作、負荷、回数、適応条件までは分かりません。「肘への負担を減らす」「スタミナがつく」と効果を保証することもできません。
- 投てき用具を人や物のある場所で投げない。
- 動画だけを見て、ブリッジや大きな可動域を求める動きを強制しない。
- 子どもの発達段階と既往歴を把握した有資格者・医療専門職に相談する。
- 痛みを「効いている証拠」と扱わない。
- プロが別の方法を選んでいることを、一般的な筋力トレーニングの否定に使わない。
家庭でできる振り返り
家庭で必要なのは専門的なフォーム改造ではなく、体調と判断を言葉にする手助けです。試合後は次の3問で十分です。
- 今日、体に痛いところや変な感じはある?
- 一番投げやすかった球はどれ?
- 次回までに「休むこと」と「一つだけ試すこと」は何にする?
「何球投げた」「完投した」だけを褒めると、痛みを隠して投げ続ける動機になることがあります。「違和感を言えた」「交代を受け入れた」「準備を記録できた」といった安全な判断も評価しましょう。
Q&A
Q. 投球数制限内なら完投を目指してよい?
上限内でも、痛みや疲労、フォームの変化があれば交代が必要です。完投は育成上の必須目標ではありません。
Q. 「力を抜いて投げる」と教えれば安全?
言葉だけで安全な動作になるとは限りません。無理にフォームを変えず、指導者と共通認識を持ち、痛みや疲労を優先してください。
Q. 山本投手と同じ練習をすればスタミナがつく?
同じ効果は保証できません。成長期の子どもには、睡眠、栄養、休養、全身を使う多様な運動を土台とし、専門的な運動は適切な指導下で行うのが安全です。
まとめ
山本投手の2試合連続完投から学べるのは、投げ込み量を増やすことではなく、状況に応じて質を保つ準備と判断です。少年野球では、完投よりも健康に次の登板を迎えることを優先し、球数の記録、体調確認、早めの交代をチームと家庭で共有しましょう。
