なぜ岡島豪郎は愛されたのか?引退会見に学ぶ、技術より大切な「人間力」の育て方
「なぜ、あの子はいつも周りに人が集まるんだろう?」
少年野球のグラウンドで、わが子やチームメイトの姿を見て、そう感じたことはありませんか?技術の向上はもちろん大切ですが、それ以上に大切な「人間力」について、まずは他の野球パパ仲間との会話を少しだけ聞いてみてください。
音声でも触れたように、先日惜しまれつつ現役を引退した東北楽天ゴールデンイーグルスの岡島豪郎選手。彼の引退会見には、17人ものチームメイトが駆けつけました。これは、彼が単なる「良い選手」ではなく、どれだけチームメイトから「愛され、尊敬されていたか」を物語る象徴的なシーンでした。
この記事では、岡島選手の野球人生を紐解きながら、なぜ彼がこれほどまでに愛されたのか、その源泉にある「人間力」に迫ります。そして、その学びを少年野球に取り組むわが子にどう活かしていくか、「応援される人間」を育てるための具体的なヒントを、野球パパの視点から徹底的に解説します。
17人が駆けつけた引退会見 ― 数字だけでは測れない岡島豪郎という選手の価値
2025年10月4日、岡島豪郎選手は現役引退を表明しました。プロ14年間で通算879試合に出場、2013年にはチームの日本一にも貢献した輝かしいキャリアでした。しかし、彼の価値は、残された数字や記録だけでは到底測れません。その事実を何よりも雄弁に物語っていたのが、引退会見の光景でした。
会見場には、本来であればオフを過ごしているはずのチームメイトたちが、実に17人も集結したのです。涙を浮かべながら先輩の言葉に耳を傾ける後輩、会見後にユニフォーム姿でサプライズ登場し、岡島選手を胴上げする仲間たち。その輪の中心で、彼は何度も何度も宙を舞いました。
「最高の思い出」を作った、仲間との絆の深さ
岡島選手は引退会見で、日本一になった2013年を振り返り、「最高の思い出」と語りました。しかし、その言葉以上に、彼の野球人生が最高であったことを証明していたのは、まさに目の前に広がる光景そのものでした。
プロ野球という厳しい勝負の世界では、個人の成績が評価の大きな指標となります。しかし、その一方で、チームスポーツである以上、仲間との関係性は無視できません。むしろ、キャリアの終わりに「これだけ多くの仲間に惜しまれる」という事実こそ、一人の野球人として、一人の人間として、最高の栄誉と言えるのではないでしょうか。
引退する選手のために、これほど多くの現役選手が自主的に集まるのは異例のことです。そこには、共に戦い、共に苦しみ、共に笑い合った仲間への深い愛情とリスペクトがありました。この絆こそ、岡島選手が14年間で築き上げた、数字には表れない最大の財産なのです。
ファンや首脳陣が語る「岡島がいれば、チームは大丈夫」という安心感
その人望は、選手間だけにとどまりません。ファンは彼のひたむきなプレーと明るい人柄を愛し、首脳陣は彼の存在がチームに与える安定感を高く評価していました。
あるメディアは、彼のことを「日本一のムードメーカー」と評しました。試合に出ている時も、ベンチにいる時も、常に声を出しチームを鼓舞する。彼がいるだけで、ベンチの雰囲気が明るくなる。そんな声が、関係者から数多く聞かれます。
特にキャリアの後半、出場機会が限られてくる中でも、彼のその姿勢は一切変わりませんでした。むしろ、チームのために自分に何ができるかを常に考え、黒子に徹する姿は、多くの若手選手にとって最高の生きた手本となったはずです。
「岡島がいれば、チームは大丈夫」
仲間やファンにそう思わせる絶大な安心感と信頼感。それこそが、彼の野球人としての真の価値だったのかもしれません。
私たちが本当に目指すべき「良い選手」の姿とは?
私たち野球パパは、わが子につい「もっと打てるようになれ」「もっと速い球を投げられるようになれ」と、技術的な要求をしてしまいがちです。もちろん、それも大切なことです。しかし、岡島選手の引退が教えてくれるのは、それだけが「良い選手」の条件ではない、ということです。
仲間から愛され、チームに必要な存在だと思われること。
挨拶がしっかりでき、道具を大切にし、誰よりも声を出すこと。
試合に出られなくても腐らず、チームの勝利のために自分ができることを探せること。
技術の向上を目指すのと同じくらい、いや、それ以上に、こうした「人間力」を育むことの重要性を、私たちは改めて考えるべきではないでしょうか。この記事のコアメッセージでもある「野球を通じて子供に学んでほしいのは、技術そのものより『周りから応援される人間になること』だ」という言葉を、岡島選手の姿は体現してくれています。
岡島選手の人間力を形作った「3つの信条」

では、岡島選手のその魅力的な人間性は、どのようにして形作られたのでしょうか。彼の過去の発言やエピソードを紐解くと、そこには彼の野球人生を貫く、3つの確固たる「信条」が見えてきます。
信条①:「毎日、同じ自分でグラウンドに立つ」ことの本当の意味
岡島選手が大切にしていた言葉の一つに、「毎日、同じ自分でグラウンドに立つ」というものがあります。これは、言うは易く行うは難し、プロの世界では特に困難なことです。
昨日の試合で打てなかった、エラーをしてしまった。そんな日は気分が落ち込み、口数も少なくなりがちです。逆に、ホームランを打った翌日は、どこか気分が高揚してしまうかもしれません。しかし、彼は自分の調子の良し悪しや感情の起伏を、決して表に出しませんでした。
チームメイトから見れば、岡島選手はいつも変わらない。いつも明るく、いつもひたむきに練習に取り組んでいる。その「一貫性」こそが、周りにいる選手たちに計り知れない安心感を与えていたのです。
少年野球でも同じです。エラーをして下を向いてしまう子、三振してベンチでふてくされてしまう子。そんな時、親として「気持ちは分かるけど、次のプレーに集中しよう」「仲間が見ているよ」と声をかけることがあると思います。岡島選手のこの信条は、まさにその大切さをプロの世界で実践し続けた証です。感情をコントロールし、常にチームの一員として安定した存在であり続けること。それは、技術以前に、信頼される選手になるための第一歩なのです。
信条②:「とにかく明るく元気よく」がチームに与える好影響
彼の野球の原点とも言えるのが、「とにかく明るく元気よくプレーすること」という信条です。これは、彼がプロ入り前からずっと大切にしてきた姿勢でした。
チームが負けている時、重苦しい雰囲気のベンチ。そんな時、たった一人の「ナイスボール!」「次、頼むぞ!」という前向きな声が、空気を一変させることがあります。岡島選手は、まさにそんな存在でした。
彼自身、捕手としてプロ入りしたものの、出場機会に恵まれず、自ら外野手への転向を直訴した過去があります。普通なら、試合に出られない日々に焦りや不満を感じてもおかしくありません。しかし、彼はそんな逆境にあっても、明るさを失わなかったと言います。
この「明るさ」は、伝染します。一人の選手が前向きな声を出すことで、他の選手もそれに引っ張られ、チーム全体がポジティブなエネルギーに満ちていく。少年野球においても、技術的に突出していなくても、声出しや全力疾走でチームを盛り上げることができる子は、監督や仲間から絶対に必要とされます。わが子には、そんな「チームの太陽」のような存在を目指してほしいと、多くのパパが願うのではないでしょうか。
信条③:大学時代の恩師から学んだ「技術より人間性」という土台
こうした岡島選手の人間性の土台は、関東学院大学時代の指導によって培われた部分が大きいと言われています。当時の監督は、技術指導と同じくらい、あるいはそれ以上に、人間教育に力を入れていたそうです。
「野球選手である前に、一人の人間としてどうあるべきか」
「感謝の気持ちを忘れないこと」
「周りへの気配りを大切にすること」
学生時代にこうした教えを深く心に刻んだからこそ、プロという厳しい世界に入ってからも、彼の人間性が揺らぐことはありませんでした。技術は磨けば向上しますが、その土台となる人間性は、一朝一夕には身につきません。
これは、少年野球に関わる私たち大人にとって、非常に重要な示唆を与えてくれます。私たちは、子どもたちに野球の技術を教えることばかりに躍起になってはいないでしょうか。挨拶、返事、道具の整理整頓、仲間への感謝。野球を通じて学ぶべきことは、技術以外にこそ溢れています。岡島選手の恩師がそうであったように、私たち野球パパも、わが子の「人間力」を育む指導者でなければならないのです。
【実践編】家庭で「応援される人間力」を育てるための5つの習慣
岡島選手のような「人間力」は、特別な才能ではありません。日々の少しの意識と習慣の積み重ねによって、誰でも育むことができます。ここでは、私たち野球パパが今日から家庭で実践できる、わが子を「応援される選手」に育てるための5つの習慣をご紹介します。
習慣①:「ありがとう」を口ぐせに。道具や環境への感謝を教える
まず、最も基本的で最も重要なのが「感謝の心」を育むことです。
- グラブやバットへの感謝: 「今日も一緒に戦ってくれてありがとうな」と言いながら、道具を丁寧に磨く習慣をつけましょう。親がまず手本を見せることが大切です。道具を「モノ」ではなく「相棒」として捉える感覚を養います。
- グラウンドへの感謝: 練習の前後には、グラウンドに向かって「お願いします」「ありがとうございました」と一礼する。これは多くのチームで実践されていますが、その意味を親子で話すことが重要です。「この場所があるから、大好きな野球ができるんだよ」と伝えましょう。
- 仲間や指導者、家族への感謝: 「〇〇君が捕ってくれたからアウトにできたね、ありがとうだね」「監督が教えてくれたこと、やってみようか」「パパ(ママ)の送り迎え、本当にありがとう」。日常の会話の中で、自分以外の誰かの支えがあって野球ができていることを、繰り返し伝えていきましょう。
「ありがとう」が自然に言える子は、周りから応援されます。感謝の気持ちは、プレーの丁寧さや仲間を思いやる心に必ず繋がっていきます。
習慣②:「結果」ではなく「姿勢」を褒める。”成長マインドセット”の育て方
子どもを褒める時、私たちはつい「ナイスバッティング!」「三振とったね!」と「結果」にフォーカスしてしまいがちです。しかし、「応援される人間力」や、失敗を恐れない心を育てるためには、「姿勢」や「努力の過程」を褒めることが何倍も重要です。これはスタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱する「成長マインドセット」の考え方に基づいています。
- NGな褒め方(固定マインドセットを助長):
- 「すごい才能だね!」→ 才能がないとダメなんだ、と思ってしまう。
- 「打ててえらい!」→ 打てなかった自分はダメなんだ、と捉えてしまう。
- OKな褒め方(成長マインドセットを育む):
- 「あの難しい球に食らいついていったのが素晴らしかったよ!」(行動を褒める)
- 「毎日素振りを続けた努力が、あのヒットに繋がったんだね!」(努力の過程を褒める)
- 「三振はしたけど、最後まで自分のスイングを貫いたのは格好良かったぞ!」(挑戦する姿勢を褒める)
結果が出なくても、その過程にある努力や挑戦する姿勢を親が認め、褒めてあげること。この積み重ねが、「失敗しても大丈夫、また頑張れば成長できる」という強い心を育み、チームが苦しい時にこそ声を出せるような、精神的なたくましさに繋がっていきます。
習慣③:チームメイトの「良いプレー」を見つけて報告させる習慣
自分のことだけでなく、常に周りを見られる視野の広さは、「応援される人間」に不可欠な要素です。そのために、家庭で簡単にできるトレーニングがあります。それが「仲間の良いプレー報告会」です。
練習から帰ってきた息子に、こう質問するのです。
「今日、チームで一番良いプレーをしてたのは誰だった?」「〇〇君の、どんなところが良かった?」
はじめは、ホームランを打った子や三振をたくさん取った子の名前が挙がるかもしれません。それでも構いません。大切なのは、他人のプレーに興味を持つきっかけを作ることです。
慣れてきたら、少し質問を変えてみましょう。
「今日、一番声を出していたのは誰?」
「エラーした仲間に対して、良い声かけをしていた子はいた?」
「一番早く準備をしていたのは誰だった?」
このように、数字に表れない「ファインプレー」を見つける視点を養わせるのです。仲間をリスペクトし、その良い部分を認められる子は、自然と仲間からも認められ、応援される存在になっていきます。
習慣④:親が聞くべきは「今日の結果」ではなく「今日学んだこと」
練習や試合から帰ってきた子どもへの第一声、あなたは何と声をかけていますか?
「今日は何本ヒット打ったの?」「試合は勝ったの?」
この「結果」を問う質問は、子どもにプレッシャーを与え、「結果が出せなかった日は親に話しづらい」という気持ちにさせてしまうことがあります。
岡島選手が「毎日同じ自分でいる」ことを大切にしたように、親も「毎日同じ態度で」子どもに接することが重要です。そのために、質問を少し変えてみましょう。
「今日は、何か新しいことを監督に教えてもらった?」
「昨日より、ちょっとでも上手くなったな、って感じたことはあった?」
「練習の中で、一番楽しかったのはどのメニューだった?」
結果の良し悪しに関わらず、子どもが野球から何を学び、何を感じたのかという「過程」に焦点を当てるのです。これにより、子どもは安心して一日の出来事を話すことができますし、親も結果に一喜一憂することなく、子どもの長期的な成長を見守ることができるようになります。
習慣⑤:スポーツマンシップを学ぶ。日本スポーツ協会の理念に触れてみよう
「人間力」の根幹には、スポーツマンシップやフェアプレーの精神があります。こうした概念は、ただ言葉で「正々堂々とやりなさい」と伝えるだけでは、なかなか子どもには響きません。
そこでおすすめしたいのが、親子で日本スポーツ協会などが掲げるフェアプレーの理念に触れてみることです。ウェブサイトには、子どもにも分かりやすい言葉で「ルールを守る」「相手を尊重する」「審判に敬意を払う」といった、スポーツマンシップの本質が解説されています。
週末の夜、数分でいいので、一緒にサイトを見ながら「こういう選手って、かっこいいよな」「岡島選手も、きっとこういう気持ちを大切にしていたんだろうね」と話してみてはいかがでしょうか。第三者の、しかも権威ある組織の言葉を借りることで、親が伝えるよりも素直に子どもの心に入っていくことがあります。野球のルールだけでなく、その土台にある「精神」を学ぶことは、人間力を育む上で非常に効果的です。
「ユーティリティープレーヤー」という生き方から学ぶ、チームへの貢献

岡島選手のキャリアを語る上で欠かせないのが、捕手と外野手の両方をこなした「ユーティリティープレーヤー」としての側面です。この生き様は、レギュラーになれずに悩む多くの子どもたち、そしてその保護者にとって、大きな希望と学びを与えてくれます。
捕手から外野へ。「転向直訴」に見る、現状を打破する主体性
岡島選手は、捕手としてプロの世界に飛び込みました。しかし、1年目は出場機会に恵まれませんでした。翌年、彼は当時の星野仙一監督に「外野をやらせてください」と自ら直訴します。
これは、とてつもない勇気が必要な行動です。監督の指示を待つのではなく、自らの現状を冷静に分析し、チームに貢献するために、そして自分自身が生き残るために、何が最善かを考え、行動に移したのです。この「主体性」こそ、彼のキャリアを切り拓いた大きな原動力でした。
少年野球では、ポジションは監督が決めることがほとんどです。しかし、もしわが子が「他のポジションをやってみたい」と口にしたら、それは彼の主体性が芽生えた素晴らしいサインです。その気持ちを頭ごなしに否定せず、「どうしてそう思うの?」「そのためにどんな練習が必要かな?」と、親子で一緒に考える機会にしてみてはいかがでしょうか。挑戦する前から諦めるのではなく、自ら活路を見出そうとする姿勢そのものが、人間的な成長に繋がります。
「控え」や「守備固め」は恥ずかしくない。与えられた場所で輝くことの尊さ
キャリアの後半、岡島選手は守備固めや代打、第3の捕手といった、いわゆる「スーパーサブ」としての役割を担うことが多くなりました。毎日スタメンで出場する華やかさはないかもしれません。しかし、試合の終盤、1点を守り抜くための大事な場面で起用される守備のスペシャリスト。勝負どころで登場する代打の切り札。監督が「ここぞ」という場面で信頼して送り出す選手がいるからこそ、チームは強くなるのです。
レギュラーになれないことは、決して恥ずかしいことではありません。試合に出られなくても、ベンチで誰よりも声を出し、相手チームの情報を仲間に伝え、いつでも出場できるように準備を怠らない。そうした姿勢でチームに貢献する方法はいくらでもあります。
岡島選手は、与えられた場所がどこであれ、常に自分の役割を100%全うしようとしました。そのプロフェッショナルな姿は、「スタメンだけが選手の価値ではない」ということを、私たちに力強く教えてくれます。
レギュラーになれない息子に、親としてどう声をかけるべきか
わが子が試合に出られず、ベンチを温めている姿を見るのは、親として辛いものです。つい、「なんで使ってくれないんだ」「もっと頑張らないからだ」と、子どもやチームを責めるような気持ちになってしまうこともあるかもしれません。
しかし、そんな時こそ、親の「人間力」が試されます。
まずは、子どもの「悔しい」という気持ちを、真正面から受け止めてあげましょう。「悔しいよな。パパも、お前が試合に出ている姿が見たいよ」と、共感を示すことが第一歩です。
その上で、視点を変える手伝いをしてあげましょう。「今日はベンチから見ていて、何か気づいたことはあった?」「〇〇君が打った時、誰よりも喜んでいたな。チームにとって、お前のその声は絶対に力になっているぞ」。
試合に出ることだけが貢献ではありません。チームの一員として、自分にできることは何か。その問いを親子で一緒に考える時間こそが、技術以上に大切な「チームのために何ができるかを考え、行動する力」を育むのです。
度重なる大怪我 ― 逆境が教えてくれた「本当の強さ」
岡島選手の14年間のキャリアは、輝かしい瞬間ばかりではありませんでした。むしろ、度重なる怪我との闘いの連続だったと言っても過言ではありません。2017年の左肩亜脱臼、2019年の手術、2020年の右手親指骨折…。何度も彼は、戦線離脱を余儀なくされました。
しかし、彼はその度に、不屈の精神でリハビリを乗り越え、一軍の舞台に帰ってきました。その姿は、逆境との向き合い方、そして本当の強さとは何かを教えてくれます。
手術とリハビリの日々。彼を支えたものは何だったのか
先の見えないリハビリは、孤独で過酷なものです。焦り、不安、そして野球ができないもどかしさ。そんな中で心を支え、前を向かせてくれたのは、やはり「仲間」や「家族」、そして「ファン」の存在だったと言います。
励ましの手紙を送るファン。リハビリ施設に顔を出してくれるチームメイト。そして、一番近くで心身ともにサポートしてくれる家族。
「応援される人間」は、「応援する力」を最も知っている人間でもあります。彼が普段から仲間を思いやり、ファンを大切にしてきたからこそ、自分が苦しい時に、多くの人々が彼を支えようと手を差し伸べてくれたのです。この「支え合いのループ」こそ、彼が逆境を乗り越えることができた最大の要因でしょう。
息子が怪我で落ち込んでいる時、絶対にかけてはいけない言葉
少年野球でも、怪我はつきものです。わが子が怪我でプレーできず、落ち込んでいる時、親としてどう接すればいいのでしょうか。良かれと思ってかけた言葉が、実は子どもを追い詰めてしまうこともあります。
- NGワード①:「いつ治るの?早く復帰しないとレギュラー取られちゃうよ」
→焦りを助長し、無理な復帰に繋がる危険性があります。 - NGワード②:「なんでそんなプレーしたんだ!注意不足だ!」
→子どもを責めても何も解決しません。自己肯定感を著しく下げてしまいます。 - NGワード③:「たいしたことないよ、すぐ治るって!」
→子どもの痛いや辛いという気持ちを軽視し、寄り添いを拒否していると受け取られます。
大切なのは、まず「痛かったな、辛いな」と、子どもの気持ちに共感することです。そして、「焦らなくていい。今はしっかり治すことが一番の仕事だよ」「野球ができなくても、チームの一員であることには変わりないよ」と、安心感を与えてあげることです。
サッカー協会も推進する「リスペクト」の精神。JFAリスペクト・フェアプレーの考え方を野球にも
怪我は、相手選手のプレーが原因で起こることもあります。そんな時、相手を責めるのではなく、互いを尊重する「リスペクト」の精神が重要になります。
この「リスペクト」の考え方を、日本では特にサッカー界が積極的に推進しています。JFA(日本サッカー協会)のリスペクト・フェアプレープロジェクトでは、「大切に思うこと」をスローガンに、仲間、相手、審判、指導者など、自分に関わるすべての人々をリスペクトする文化を醸成しようとしています。
この考え方は、野球界、特に育成年代である少年野球にこそ必要不可欠です。相手の素晴らしいプレーを称え、審判の判定を受け入れ、仲間が決して一人にならないように支え合う。こうしたリスペクトの精神が根付いていれば、たとえ怪我という不運なアクシデントが起きても、選手同士が憎しみ合うのではなく、互いを思いやることができます。岡島選手が仲間から愛された理由も、彼が常にこのリスペクトの精神を体現していたからに他なりません。
まとめ:わが子に野球を通して本当に学んでほしいこと

ここまで、岡島豪郎選手の野球人生を紐解きながら、技術以上に大切な「人間力」について考えてきました。最後に、この記事で最も伝えたかったことを、改めてまとめたいと思います。
岡島豪郎の野球人生が教えてくれた「人間力」の本質
彼の野球人生は、私たちに教えてくれます。
チームのために、自分の役割を全うする「献身性」。
どんな時も明るく前向きな声で、仲間を鼓舞する「ポジティブさ」。
調子が良い時も悪い時も、変わらない態度で準備を怠らない「一貫性」。
現状に甘んじず、自ら道を切り拓こうとする「主体性」。
そして、仲間やファン、すべての人に対する「感謝とリスペクト」。
これらすべてが「人間力」であり、彼が多くの人々から愛された理由の核心です。
技術はいつか衰える。しかし、応援される人間性は一生の財産になる
少年野球の時間は、長い人生から見ればほんの一瞬です。プロ野球選手になれるのは、ほんの一握り。ほとんどの子どもたちは、どこかで野球を辞め、別の道を歩んでいきます。
その時、彼らの人生を本当に支えてくれるものは何でしょうか。
ホームランを打った記憶でしょうか。速い球を投げられた実績でしょうか。それも素晴らしい思い出です。
しかし、それ以上に力になるのは、野球を通じて身につけた「人間力」ではないでしょうか。仲間と協力すること。目標に向かって努力し続けること。失敗しても、周りの支えを借りて立ち上がること。そして、周りの人々から「あいつのためなら、一肌脱ごう」と思われるような、応援される人間であること。
技術はいつか衰え、過去のものになります。しかし、野球を通じて培った人間性は、その子の人生を生涯にわたって豊かにしてくれる、かけがえのない財産になるはずです。
明日からできる、わが子を「愛される野球人」に育てるための第一歩
この記事を読んで、「よし、わが子にも人間力を」と思ってくださった野球パパの皆さん。難しく考える必要はありません。
まずは、明日、練習から帰ってきた息子さんに、こう聞いてみてください。
「今日、チームで一番声を出していたのは誰だった?」
そのたった一つの質問が、わが子が技術だけでなく、周りの仲間へと目を向けるきっかけとなり、「応援される人間」へと成長していく、記念すべき第一歩になるかもしれません。