徳島発!学童野球の新ルール「リクエスト制度」を徹底解説|審判を守り、子供の心を育む全国初の試み
「え、今のセーフじゃないの…?」
「今の完全にボールだっただろ!」
わが子の試合を応援する中で、審判の微妙な判定に、選手も、ベンチも、そしてスタンドの保護者も一体となってモヤモヤした空気に包まれる…。少年野球の現場では、残念ながら決して珍しくない光景です。
この状況を変えるかもしれない画期的なルール、それが徳島県で始まったビデオを使わない日本独自の「リクエスト制度」です。
本文を読み進める前に、まずは野球パパ仲間との立ち話を聞くような感覚で、このテーマの面白さに触れてみませんか? 約1分間の音声で、この記事で何がわかるのか、その核心をサクッとご紹介します。
いかがでしたでしょうか。
それでは、ここから本編です。長年、少年野球にパパとして関わってきた私の視点から、この新しいルールがなぜ今、どうしても必要なのか、その背景にある深刻な問題から、わが子の成長にどう繋がるのか、そして私たち保護者はこの変化とどう向き合うべきかまで、収集した全情報を基に、どこよりも詳しく、そして熱く解説していきます。
この記事を読み終える頃には、単なる新ルールの知識だけでなく、これからの少年野球との向き合い方について、きっと新たな視点が得られるはずです。
そもそも学童野球の「リクエスト制度」って何?プロとどう違うの?
まずは「リクエスト制度って何?」という基本的な部分から、プロ野球との違いを交えながら、分かりやすく解説します。結論から言うと、これはプロ野球の制度とは似て非なる、アマチュア野球だからこそ生まれた「対話」を重視した素晴らしい仕組みなのです。
全国初!徳島県軟式野球連盟が導入した「協議(リクエスト)」制度とは
この制度は、徳島県軟式野球連盟が2025年度から、全日本軟式野球連盟の下部組織としては全国で初めて導入したものです。驚くべきは、その適用範囲。小学生の「学童野球」だけでなく、中学生や社会人を含む、同連盟が関わる全てのカテゴリーの公式戦で運用が開始されました。
既に2025年8月に開催された「阿波踊りカップ 全国学童軟式野球大会2025」といった大きな大会でも実際に適用されており、単なる試験的な取り組みではなく、野球界の未来を見据えた本気の改革であることが伺えます。
【一目でわかる比較表】ビデオ判定は使わない!プロ野球(NPB)との決定的な違い
「リクエスト」と聞くと、多くの人がプロ野球(NPB)のビデオ判定を思い浮かべるでしょう。しかし、学童野球で導入された制度は、その目的も手段も全く異なります。
| 比較項目 | 学童野球「協議(リクエスト)」制度(徳島モデル) | プロ野球(NPB)「リクエスト」制度 |
|---|---|---|
| 判定手段 | 審判団4名による協議(人の目と記憶で再確認) | ビデオ判定(映像と機械で再確認) |
| 設備・コスト | 不要(グラウンドがあればどこでも可能) | 大規模な映像機材と専門スタッフが必要 |
| 主目的 | 審判員の心理的保護と子供の教育・心理的ケア | 判定の正確性追求と誤審の訂正 |
| 判定プロセス | グラウンド上の審判員による公開された対話 | 別室での非公開な映像検証 |
この表が示す最も重要な違いは、「機械に頼るか、人の対話に頼るか」という点です。プロ野球が「100%の正解」を追求するのに対し、徳島モデルは「関係者全員の納得感」を醸成することを重視しているのです。
実はシンプル!押さえておくべき基本ルール
では、実際の試合ではどのように運用されるのでしょうか。保護者としても知っておくべき基本ルールは非常にシンプルです。
- 要求できるのは誰?:当該チームの監督のみです。選手や保護者が直接審判に要求することはできません。
- 対象となるプレーは?:「アウトかセーフか」の判定に限定されます。ストライクやボールの判定は対象外です。
- 何回まで使える?:1試合に1回が基本です。ただし、ここが面白いポイントで、リクエストの結果、判定が覆った(成功した)場合は、回数は消費されず、その試合でもう一度要求する権利が残ります。失敗すれば、その試合での権利は消滅します。まさに監督の「切り札」としての戦略性が問われるルールです。
「なぜビデオ判定ではないのか?」という疑問への本質的な回答
「どうしてビデオを使わないの?その方が正確じゃない?」と誰もが思うはずです。その答えには、理想論だけでは語れない、アマチュア野球現場の現実と、深い理念が隠されていました。
- 現実的な問題:アマチュア野球の現場で映像機材導入は不可能
まず、プロ野球のような高価なハイスピードカメラや再生機材を、全国の少年野球のグラウンドに設置するのは物理的にも経済的にも不可能です。仮に導入できたとしても、それを操作する専門のスタッフも必要になります。ボランティアで成り立っている現場の実情を考えれば、ビデオ判定は全く現実的ではありません。 - 理念的な問題:「人の判断」を尊重し、対話を重視する思想
こちらがより本質的な理由です。この制度の根幹には、「野球は人がやるスポーツであり、審判もその一部である」という思想があります。完璧ではない「人」の判断を、別の「人」の複数の目で再確認し、審判団というチームで結論を出す。この「協議」のプロセスそのものに教育的価値があると捉えているのです。機械による冷徹な判定結果だけを示すのではなく、審判たちが真剣に話し合う姿を子供たちに見せること。それこそが、徳島モデルが目指す「対話による問題解決」の第一歩なのです。
なぜ今、この制度が必要なのか?背景にある少年野球の2つの叫び

この画期的な制度は、決して思いつきで導入されたわけではありません。その背景には、もはや限界に達しつつある、少年野球界からの悲痛な叫びがありました。
叫び① 審判員の悲痛な声:「もう限界だ…」減り続ける審判と深刻な高齢化の実態
今、全国のグラウンドから審判員の姿が静かに消え始めています。
- 衝撃のデータ:ある調査によれば、全国の登録審判員の約4割が60歳以上。徳島県でも、審判員の数は過去10年で約3割も減少しているというデータがあります。若い世代が審判員になろうとせず、高齢化が急速に進んでいるのです。
- 保護者審判の苦悩:学童野球の現場では、お父さんやお母さんが「保護者審判」としてジャッジを行うことも少なくありません。しかし、野球未経験者にとってはルールの理解だけでも一苦労。その上、我が子のチームメイトや相手チームの保護者からの厳しい視線、時には心無いヤジにさらされるプレッシャーは計り知れません。「もう二度とやりたくない」と感じてしまう保護者が後を絶たないのが現実です。
徳島県軟式野球連盟の十川佳久会長は、「野球人口の減少がよく言われ、私もそれをすごく感じます。審判も同じです。プレーする人だけじゃなく、審判もいないと野球はできないでしょう」と、強い危機感を語っています。審判がいなければ、子供たちは試合そのものができなくなるのです。
叫び② 匿名の刃:SNSでの誹謗中傷が審判の心を壊す…徳島で起きた「炎上事件」の全貌
審判員不足に拍車をかけているのが、現代特有の凶器ともいえるSNSによる誹謗中傷です。徳島県でこのリクエスト制度が導入される直接的な引き金となった、一つの痛ましい事件がありました。
- きっかけとなった衝撃的なSNS投稿:昨年、ある学童野球の試合後、一つのプレー写真と共に判定を批判する文章がSNSに投稿されました。試合中には、監督からの正式な抗議は一切ありませんでした。しかし、その投稿は瞬く間に拡散。試合とは全く無関係の匿名の人々までが、その審判員個人を名指しで攻撃し始め、いわゆる「炎上」状態に陥ったのです。
徳島県連盟の十川会長は、当時の状況をこう語ります。
「プレーの写真と判定を批判する文章が昨年、SNSに投稿されて、その試合に全く関係のない人までコメントを寄せて、炎上状態になったんです。…どこの誰か分からない人から誹謗中傷されるって、(当事者にとって)とんでもなく恐ろしいことですよ」
匿名で、一方的に、そして集団で。この匿名の刃は、ボランティアで子供たちのためにグラウンドに立ってくれていた一人の審判員の心を、深く、深く傷つけました。これはもはや徳島だけの問題ではありません。プロ野球選手会ですら専門の対策チームを立ち上げるほど、スポーツ界全体がこの問題に直面しているのです。
「審判を守る」ことが最大の目的。感情的な抗議から、対話による解決へのパラダイムシフト
これらの背景から、リクエスト制度の最大の目的は「審判を守ること」であると断言できます。
判定に疑問が生じた際、これまでは監督が球審一人に詰め寄り、時には感情的な抗議に発展することもありました。これでは、判定を下した審判個人が全てのプレッシャーと責任を背負うことになります。
しかし、この新制度では、「協議(リクエスト)」という正式な手続きを踏むことで、問題が「個人」から「審判団チーム」へと移行します。4人の審判がマウンドに集まり、それぞれの視点から意見を出し合い、チームとして最終結論を導き出す。このプロセスを公式に設けることで、一人の審判が孤立することを防ぎ、心理的な負担を劇的に軽減する「防波堤」となるのです。
十川会長の「昔のように『誰が絶対』と言う時代ではない」という言葉は、審判の権威を失くすという意味ではありません。審判、指導者、選手、保護者という、野球を構成する全ての人々が互いを尊重し、ルールという共通言語の上で「対話」をしながら、より良い試合環境を共創していく。そんな新しい時代へのパラダイムシフトを宣言しているのです。
【野球パパ必見】リクエスト制度が”わが子”にもたらす3つの教育的効果

この制度は、審判を守るだけでなく、試合の主役である子供たちの成長にとっても、計り知れないほどのポジティブな効果をもたらします。私たち親が注目すべきは、まさにこの教育的価値です。
効果① 心のケア:「なんで?」子どもの”モヤモヤ”を解消し、気持ちの切り替えを助ける
「今の絶対アウトだよ…」。クロスプレーでセーフと判定されたキャッチャーの少年が、悔しさのあまり涙ぐみ、その後の守備で集中力を欠いてしまう…。そんな経験、ありませんか?
子供たちは大人以上に純粋で、一度「おかしい」と感じてしまうと、その“モヤモヤ”した気持ちを引きずってしまいます。
実際に「阿波踊りカップ」でリクエストを経験したある選手は、「他の大会で判定にモヤモヤして、試合が終わるまで引きずってしまった経験がある」と語っています。しかし、リクエスト制度によって審判団がすぐに話し合い、結論が出されたことで、「心の整理がしやすかった」と証言しているのです。
たとえ判定が覆らなくても、「監督が僕たちのために動いてくれた」「審判さんたちがしっかり話し合ってくれた」という事実が、子供たちの心をケアし、次のプレーへと気持ちを切り替える大きな助けになります。これは、将来どんな困難な状況に直面しても、感情をコントロールし、前を向くための大切な「精神的なリカバリー能力」を育む訓練とも言えるでしょう。
効果② 生きた教材:監督が見せる「正しい異議申し立て」の姿からルール尊重を学ぶ
子供は大人の背中を見て育ちます。審判の判定に不服な時、大人が取るべき態度は、感情的なヤジや恫喝まがいの抗議ではありません。
監督がベンチを飛び出し、冷静に、そして敬意を払って審判に「協議をお願いします」と申し出る。そして、審判団がマウンドに集まり、真剣な表情で議論を交わす。この一連の光景は、子供たちにとって「ルールの中で、正しい手続きを踏んで異議を申し立てる」という社会の基本を学ぶ、最高の生きた教材となります。
審判団の真剣な協議の姿は、判定というものがどれだけ重い責任のもとで下されているかを、言葉以上に雄弁に子供たちに伝えてくれます。決勝戦で球審を務めた増田恭太さんの「(私たち審判も)真剣に野球と向き合い、大きな責任と使命感を背負ってグラウンドに立っています」という言葉の重みを、子供たちが肌で感じる瞬間です。
効果③ 信頼の醸成:「全力プレーを信じてくれている」と感じた選手の喜びの声
監督が「リクエスト」という貴重な権利を行使する。その行為は、選手たちにとって「監督は、俺たちの今の全力プレーを信じてくれているんだ」という、何より力強い無言のメッセージとなります。
前述の選手も、監督がリクエストしてくれたことに対し、「全力プレーを信頼してくれているように感じられ嬉しかった」と語っています。この「認められている」という感覚は、子供の自己肯定感を高め、さらなる挑戦への意欲を引き出します。
勝敗を超えて、監督と選手の間に確かな信頼の絆が生まれる瞬間。リクエスト制度は、チームの一体感を醸成するための、非常に有効なコミュニケーションツールにもなり得るのです。
私たちはどう向き合うべきか?指導者と保護者のための「リクエスト制度」心得
新しい制度が導入された今、その価値を最大限に引き出すためには、指導者、そして私たち保護者の理解と協力が不可欠です。
指導者の心得:単なる抗議の道具ではない。チームの信頼を高める「切り札」としての使い方
指導者の皆様には、この制度を単なる「抗議の道具」としてではなく、チームを成長させるための「戦略的ツール」として捉えていただきたいと願います。
- いつ使うべきか?:試合の流れが相手に傾きかけた、まさに「ここぞ」という場面で使うことで、選手たちの動揺を鎮め、集中力を取り戻す「間」を作ることができます。勝敗を左右するプレーだけでなく、チームの士気を高めるために使うという戦略的視点が重要です。
- リクエスト後の声かけ:判定が覆ろうと覆るまいと、協議が終わった後に選手たちにどう声をかけるかが監督の腕の見せ所です。「審判団がしっかり判断してくれた。さあ、切り替えて次のプレーに集中しよう!」という一言が、チームを再び前向きにさせます。
保護者の心得:あなたのヤジが審判を追い詰める。「審判も育成対象」という温かい視点の重要性
そして、私たち保護者に最も求められるのは、審判員へのリスペクトです。スタンドからの心無いヤジが、どれだけ審判員の心を傷つけ、少年野球の未来を脅かしているか、私たちは知る必要があります。
もし、わが子の試合に審判が誰も来なくなったら?
そう想像してみてください。審判は、子供たちが野球を楽しむための、かけがえのない存在です。彼らもまた、完璧ではない一人の人間であり、経験を積みながら成長していく「育成対象」なのです。
ミスジャッジに見える判定があったとしても、それは子供たちの成長の糧。むしろ、そうした理不尽さへの向き合い方を教えるチャンスと捉えるべきです。試合後、「今日もありがとうございました!」の一言を審判に伝える。SNSで審判を称える投稿をする。そんな小さな行動の積み重ねが、審判を守り、ひいては子供たちの野球環境を守ることに繋がります。
同時導入された「すだち君警告カード(イエロー/レッド)」が私たちに突きつける重いメッセージ
徳島県では、このリクエスト制度と同時に、「すだち君警告カード」という制度も導入されました。これは、指導者や保護者が選手に対して「あほ」「ぼけ」といった暴言や、社会的に容認できない言動をした場合に、審判がイエローカードやレッドカードを提示して警告・退場を命じるというものです。
これは、連盟が「暴言・罵声は絶対に許さない」という明確な意思表示をしたことに他なりません。リクエスト制度が「対話」を促すアメであるならば、警告カードは「非対話」を罰するムチです。この二つの制度は、少年野球に関わる全ての大人に対して、その姿勢を厳しく問いかけているのです。
学童野球の未来はどう変わる?全国への普及と、私たちにできること
徳島で産声を上げたこの新しい試みは、日本の少年野球の未来を大きく変える可能性を秘めています。
香川・高知も導入検討!「徳島モデル」は全国へ広がるか
この「徳島モデル」の成功を受け、隣県の香川県や高知県でも2025年度からの導入が検討され始めています。
野球人口が減少し続ける現代において、いかにして安全で、誰もが楽しめる持続可能な運営モデルを構築するかは、全国共通の課題です。ビデオを使わない「徳島モデル」は、コストをかけずに導入できる現実的な解決策として、今後、全国の野球連盟から注目を集めることは間違いないでしょう。
投球数制限、低反発バット…すべては「子供を守るため」という大きな潮流
近年の少年野球界では、
- 投手の肩・肘の故障を防ぐための「投球数制限」
- 打球速度を抑え、投手の安全を守るための「低反発バット(飛ばないバット)」の導入
など、様々なルール変更が行われてきました。これらはすべて、目先の勝利よりも、子供たちの身体的な安全と将来の野球人生を守ることを最優先する、「育成至上主義」への大きな潮流の中にあります。
今回のリクエスト制度もまた、「審判を守り、子供の心を育てる」という点で、この大きな流れに合致するものです。詳細な情報は全日本軟式野球連盟の公式サイトでも確認できます。
専門家も評価する教育的価値と、アマチュア野球の未来
この制度の価値は、元プロの審判員や教育評論家からも高く評価されています。ある元NPB審判員は「子供たちに“ルールの中で異議を唱えることの正当性”を教える、教育的に優れた制度だ」とコメントしています。
プロ野球界でも、日本プロ野球選手会が中心となり、少年野球の普及や指導者育成などの社会貢献活動に力を入れています。プロ・アマの垣根を越えて、「子供たちのための野球環境」をどう作っていくかという議論が、今まさに活発になっているのです。
まとめ:徳島から始まった小さな一歩が、少年野球の未来を大きく変える

徳島県で始まった学童野球の「リクエスト制度」。
それは、単なるルール変更ではありません。
- 審判を守るための「防波堤」であり、
- 子供の心を育むための「生きた教材」であり、
- 野球に関わる全ての人が対話するための「共通言語」です。
その根底に流れるのは、テクノロジーに頼るのではなく、「リスペクト(尊敬)」と「ダイアログ(対話)」という、人間同士のコミュニケーションを何よりも大切にするという温かい哲学です。
野球人口が減り、審判も不足し、SNSでの誹謗中傷が絶えない。そんな厳しい時代だからこそ、この徳島から始まった小さな一歩は、これからの少年野球がどうあるべきかという、大きな希望の光を示してくれています。
この光を全国に広げていくために、私たち保護者にできること。それは、まずこの制度を正しく理解し、そして何よりも、グラウンドに立つすべての人々へのリスペクトを忘れないことです。
わが子の、そして全ての子供たちの「野球が好きだ!」という純粋な気持ちを守るために。さあ、私たち大人から、新しい一歩を踏み出しましょう。
