「高学年から野球を始めたいと言われても、周りは何年も前からやっている。今さら入って大丈夫だろうか」。うれしいはずの子どもの一言に、期待より先に不安が浮かぶパパもいるのではないでしょうか。
君津高校の縄野二翌選手は、高校2年生の10月に「軽いノリ」で入部し、そこから野球のとりこになったとスポーツブルの報道で伝えられました。ただし、この話を「遅く始めても努力すれば追いつける」という成功談だけで終わらせたくはありません。
技術差のある場所へ踏み出す子に最初に必要なのは、高価な道具でも猛練習でもなく、「分からない」と言えて、小さな役割を持てる居場所です。
野球未経験だった私自身も、知識がないためにグラウンドで会話へ入れず、浮いているように感じた経験があります。大人でもつらいのですから、年下の子よりうまくできないかもしれない子どもの怖さは、簡単に根性論で片づけられません。
今回は入部前のためらいから最初の1か月、継続を選び直す時期までを追いながら、家庭、指導者、仲間が整えたい受け入れ方を具体化します。
高校2年の10月から夢中に――縄野二翌選手の話をどう読むか
「軽いノリ」は覚悟不足ではなく、好きになるための小さな入口
「軽いノリで始めた」と聞くと、真剣に取り組んできた人ほど、「そんな気持ちで高校野球に入れるのか」と引っかかるかもしれません。しかし、何かを好きになる前から、強い覚悟を持っている人ばかりではありません。
友達に誘われた。ボールを打ってみたら面白かった。試合を見て、自分もやってみたくなった。こうした軽いきっかけは、競技への敬意がないことを意味しません。むしろ、子どもの興味が動き出した最初のサインです。
少年野球でも、体験前の子に「最後まで続けられるのか」「休まず練習へ行けるのか」と覚悟を迫ることがあります。親として費用や送迎が気になるのは当然です。それでも、好きかどうかさえ分からない段階で、何年先までの決意を求めるのは重すぎます。
入口は軽くてよいのです。大切なのは、入った後に本人が面白さを発見し、続けるかどうかを自分で選べること。「本気だから始める」だけでなく、「始めたから本気になる」という順番もあります。
最後の夏まで1年を切った入部が異例とされる理由
高校2年生の10月に入部すれば、最後の夏まで残された時間は1年を切っています。幼少期から野球を続けてきた選手が多い高校野球では、捕球や送球、打撃フォームだけでなく、試合中の判断、連係、サイン、練習の進め方にも大きな経験差があります。
少年野球でも事情は同じです。高学年から始めた子が直面するのは、「投げる」「捕る」「打つ」だけではありません。どこへカバーに入るのか、走者がいるときに何を優先するのか、アウトカウントによって守備位置をどう変えるのか。経験者が自然に動いている場面ほど、初心者には説明されていない情報が詰まっています。
さらに、チームにはすでに人間関係や役割があります。いつも組むキャッチボール相手、声を出す子、道具を準備する流れまで固まっていると、新しく入った子は技術以前に「どこにいればいいのか」が分かりません。
遅い入部が異例なのは、本人の能力が低いからではなく、限られた時間の中で技術、判断、人間関係を同時に学ばなければならないからです。だからこそ、本人の根性だけに任せず、受け入れる側が学ぶ順番を整理する必要があります。
成功の保証ではなく「始める資格を経験年数で決めない」という教訓
縄野選手の話から、「遅く始めても努力すれば必ず試合に出られる」と結論づけるのは危険です。上達の速度、チームの選手層、指導環境、残された時間は一人ひとり違います。努力しても、望んだ結果に届かないことはあります。
それでも、「経験がないから始めるべきではない」と大人が先回りして決める必要もありません。成功が保証されないことと、挑戦する資格がないことは、まったく別の話です。
日本野球協議会の野球普及振興活動状況調査2024 報告書によると、統括団体への登録選手数は2007年の161万3,156人から2023年には93万9,605人まで減少しています。約42%の減少です。野球界全体が新しい仲間を必要としている一方で、「幼い頃から続けてきた子の競技」という空気が残れば、興味を持った子が入口で引き返してしまいます。
遅く始めた子が全員レギュラーになる必要はありません。しかし、全員に「好きになる機会」は必要です。大人が守るべきなのは結果の保証ではなく、試してみる権利なのだと思います。

「今さら始めても」の正体は、技術差だけではない
初心者を苦しめる捕球・送球より見えにくい「暗黙のルール」
初心者のつまずきとして目につきやすいのは、ボールを捕れない、狙ったところへ投げられない、バットに当たらないといった技術面です。しかし、本人をより疲れさせるのは、説明されないまま進んでいく「暗黙のルール」かもしれません。
たとえば、ノックで自分の順番が終わった後はどこへ並ぶのか。ベースカバーとは何か。先輩や指導者へどのタイミングで質問すればよいのか。練習中に飛び交う「ゲッツー」「中継」「タッチアップ」といった言葉も、経験者には日常語でも初心者には外国語に近いものです。
分からないことが一つなら質問できます。ところが、ほぼ全部が分からないと、何から聞けばよいのかさえ分かりません。その状態で動きが遅れれば、「ぼんやりするな」と注意される。本人は聞いていないのではなく、処理すべき情報が多すぎて動けないのです。
初心者を受け入れるとは、簡単な球を投げることだけではありません。用語、順番、立ち位置、質問の仕方まで言葉にすることです。経験者が無意識にできていることを、いったん分解して渡す必要があります。
年下より下手、迷惑をかける、笑われる――子どもの三つの怖さ
遅く始める子には、大きく三つの怖さがあります。
一つ目は、年下の子より下手であること。学年が上なら、運動でも人間関係でも「できて当然」と見られやすくなります。ところが野球では、低学年から続けている年下の子のほうが、捕球も判断も上手なことがあります。頭では経験差だと分かっていても、自尊心が傷つくのは無理もありません。
二つ目は、チームへ迷惑をかけること。実戦形式で打球を後ろへそらしたり、走る場面を間違えたりすると、「自分のせいで練習が止まった」「試合に負けるかもしれない」と感じます。責任感の強い子ほど、失敗を避けるために消極的になります。
三つ目は、笑われることです。仲間に悪意がなくても、珍しい動きへの笑い声や、経験者同士の軽いツッコミが、初心者には「自分は場違いだ」という合図に聞こえることがあります。
ここで「気にしすぎ」「根性がない」と片づけると、子どもは野球だけでなく、困っていることを親へ話すのもやめてしまいます。まずは怖さがある前提で、「分からない状態で参加したこと自体が挑戦だ」と認めたいところです。
レギュラー、道具代、当番、人間関係――親が先回りして抱える不安
親の不安も現実的です。今から始めてもレギュラーになれないのではないか。グローブやスパイクを買って、すぐやめたらもったいない。送迎や当番を引き受けられるか。経験者の保護者の輪へ入れるか。どれも家庭生活に関わるため、考えないわけにはいきません。
ただし、親の不安をそのまま子どもの限界にしてはいけません。「どうせ試合に出られない」「道具代が無駄になるかも」という言葉を先に置くと、子どもは体験する前から、自分の興味が家族へ迷惑をかけるものだと受け取ります。
私自身、野球経験がなく、グラウンドで他の保護者との会話に入れず困った経験があります。だから、親が人間関係を不安に思う気持ちはよく分かります。しかし、その不安は「子どもには向いていない」という証拠ではなく、親側にも情報と準備が必要だというサインです。
レギュラーになれるかではなく、初心者にも参加機会があるか。全部買う前に借りられるか。当番は毎週なのか、できる人が分担するのか。曖昧な不安は、具体的な質問へ変えると扱いやすくなります。
入部前にパパが整えたいのは、練習量より「試せる余白」
「本当に続けるの?」と覚悟を迫る前に、体験参加を一度の実験にする
子どもが「やってみたい」と言ったとき、親はつい継続の約束を取りたくなります。道具代や送迎を考えれば当然です。それでも、体験前の子に「途中でやめないよね」と迫ると、参加のハードルが一気に上がります。
最初の体験は、入団試験でも将来を決める契約でもありません。「野球が自分に合うかを確かめる一度の実験」と位置づけてみてください。
体験後に確認したいのは、上手にできたかだけではありません。
- もう一度行ってみたいと思ったか
- 分からないときに質問できたか
- 名前を呼んでくれた仲間がいたか
- 失敗した後も練習へ戻れたか
- 怖かったことや困ったことは何か
一度で判断できなければ、可能な範囲でもう一度試してもよいでしょう。初日は緊張で何も見えなかった子が、二度目に初めて楽しさを感じることもあります。「続ける覚悟」より先に、「試して考えられる余白」を用意するのが親の仕事です。
初心者歓迎の看板より具体的――監督・コーチへ聞きたい8項目
「初心者歓迎」と書かれていても、受け入れ方はチームによって違います。本当に知りたいのは、歓迎という気持ちではなく、初心者が練習へ入るための具体的な仕組みです。
入団前には、次の8項目を確認しておくと安心です。
1. 最初の1か月は、何をどの順番で教えるのか 2. ルールや練習方法が分からないとき、誰がフォローするのか 3. 経験別、習熟別に分かれて練習する時間があるか 4. 初心者にも打席、守備、走塁など実戦へ関わる機会があるか 5. ミスをした子へ、指導者や仲間がどのような声を掛けているか 6. グローブやバットの貸与、中古品の利用が可能か 7. 費用、送迎、当番の頻度と、参加できない場合の扱いはどうなるか 8. 暴言、威圧、仲間外れなどを相談できる窓口や責任者がいるか
質問するときは、「経験者へ追いつくまで何か月かかりますか」より、「最初の1か月で、本人が一つできるようになるとしたら何ですか」と聞くほうが、指導の具体性を確かめられます。
明確な答えがすべて返ってこなくても構いません。大切なのは、質問を面倒がらず、一緒に考えてくれるかどうかです。その応答自体が、入団後に困ったときのチームの姿勢を映します。
道具、費用、送迎、当番を家族で見える化し、無理のない参加条件を決める
子どもの意欲を尊重することと、家庭が無理をすることは同じではありません。続けるには、道具代、月会費、遠征費、送迎、当番、休日の予定を現実的に見積もる必要があります。
まずは「入団時に必ず必要な物」と「後から買える物」を分けましょう。体験中は借用品を使い、グローブはお下がりや中古品も検討できます。野球道具には修理しながら長く使う文化もあります。最初から最高級品をそろえる必要はありません。
送迎や当番についても、「何とかなるだろう」で始めると、数か月後に家族全体が疲れます。誰がどの曜日を担当できるか、兄弟姉妹の予定と重ならないか、行けない日の選択肢はあるかを見える化しておきましょう。
ここで重要なのは、「親が全部背負える家庭だけが参加できる」という構造を当然にしないことです。チーム側にも、役割分担や負担軽減を相談してよいのです。参加条件を整えるのは、熱意を疑う行為ではありません。子どもの「やってみたい」を長く守るための環境設計です。
最初の1か月でつくるべきは、上手さではなく居場所
初日――名前を呼んでくれる「バディ」と、分からないと言える空気
初日の初心者にとって、最初の難関はボールではなく居場所です。集合したらどこへ並ぶのか、荷物をどこへ置くのか、誰とキャッチボールをするのか。周囲が当たり前に動くほど、一人だけ取り残された感覚が強くなります。
そこで役立つのが、同学年や面倒見のよい上級生を一人付ける「バディ制」です。特別な指導力は必要ありません。名前を呼ぶ、移動先を伝える、順番を示す、分からない言葉を短く説明する。それだけで、初心者の情報負担は大きく下がります。
指導者からの「分からなければ聞いて」という言葉も大切ですが、それだけでは足りません。初心者は、何が分からないかも整理できないからです。「次はここへ並ぶよ」「今の言葉、分かった?」と周囲から具体的に声を掛けることで、質問できる空気が生まれます。
初日の評価軸は、何球捕れたかではありません。仲間の名前を一人覚えた。分からないと一度言えた。練習の最後までその場にいられた。まずは、その程度で十分です。
1週目――柔らかい球、ティー打撃、ミニゲームで小さな成功をつくる
初心者へいきなり経験者と同じ速さの球を投げれば、怖さが先に学習されます。速い打球を捕れないことが続けば、「自分は野球が苦手だ」という結論にもつながります。
最初の1週間は、柔らかい球、短い距離のキャッチボール、ティー台に置いた球を打つ練習など、成功しやすい難易度から始めたいところです。簡単にするのは甘やかしではありません。安全に動作を覚え、もう一度やりたいと思える土台をつくるためです。
さらに、練習した動きをミニゲームへつなげます。打ったら一塁へ走る、捕ったら近いベースへ投げるなど、ルールを絞れば初心者も実戦の楽しさを味わえます。基礎が完成するまで試合形式へ入れないのではなく、簡単な実戦と基礎を往復させるのです。
小さな成功とは、強い打球や完璧な捕球だけではありません。「バットに当たった」「一塁へ迷わず走れた」「アウトカウントを確認できた」。本人が前進を実感できる大きさまで課題を分けることが、次の参加意欲を生みます。
1か月目――打席・守備・走塁・声掛けから本人の役割を一つ見つける
1か月が過ぎる頃には、できることと苦手なことが少しずつ見えてきます。この時期に大切なのは、「経験者へどれだけ追いついたか」ではなく、チームの中で本人が担える役割を一つ見つけることです。
打席へ立つ。守備で決められた場所を守る。代走で出る。ボールを拾う。アウトカウントを伝える。ベンチから仲間へ声を掛ける。野球には、安打や好守以外にも参加の形があります。
私の息子も、足や打撃が特別優れていたわけではありませんが、周囲への気配りと粘り強さがあり、高学年になるとキャッチャーを任されました。ピッチャーや試合の流れを見てタイムを取る姿から、適性は身体能力だけで決まらないと感じた経験があります。
初心者にも同じことが言えます。まだ捕球が安定しなくても、人の話をよく聞けるかもしれない。仲間への声掛けができるかもしれない。役割を認められると、子どもは「下手だから置いてもらっている」のではなく、「自分もチームの一員だ」と感じられます。

軽いきっかけを本気へ変える、家庭での声かけ
練習後の第一声を「打てた?」から「何が面白かった?」へ変える
練習後、親は成果を知りたくなります。「打てた?」「エラーしなかった?」「今日は何本捕れた?」。悪気のない質問ですが、初心者には成績確認のように聞こえることがあります。
第一声を「今日は何が面白かった?」へ変えてみてください。面白かったことを聞けば、本人が野球のどこに興味を持っているのか分かります。打つことかもしれません。仲間とのキャッチボールかもしれません。ルールが少し分かった瞬間かもしれません。
ほかにも、「前より分かったことはあった?」「困ったとき、誰が助けてくれた?」という質問が使えます。技術だけでなく、理解や人間関係にも目を向けられるからです。
答えが短くても、無理に聞き出す必要はありません。疲れて話したくない日もあります。親の役割は毎回の練習を分析することではなく、本人が話したくなったときに安心して言葉を置ける場所をつくることです。
比べる相手は経験者ではなく昨日の本人――参加行動を見つけて言葉にする
経験者との差は、しばらく残ります。そこで「同学年のあの子はできている」と比べれば、本人が変えられない過去の経験年数で評価することになります。
見るべきは、昨日の本人からの変化です。
- 自分からあいさつできた
- 仲間の名前を覚えた
- ボールから逃げずに構えられた
- 練習の順番を理解できた
- アウトカウントを確認できた
- ミスの後、もう一度挑戦できた
こうした参加行動は、スコアには残りません。しかし、野球を続ける土台になります。「今日はヒットがなかったね」ではなく、「分からないときに自分から聞けたね」と言葉にすれば、本人は結果以外の成長も見てもらえていると感じられます。
ただし、何でも大げさに褒めればよいわけではありません。子ども自身が納得していないプレーまで「最高だった」と持ち上げると、かえって話が通じなくなります。事実を具体的に見つけ、「前よりここが変わった」と伝えることが大切です。
自主練は本人が望んだときだけ――親は5~10分の伴走者になる
経験差が見えると、親は家庭練習で埋めたくなります。毎日素振りをさせる、動画を見せる、個人レッスンへ通わせる。支えたい気持ちからの行動でも、やりすぎると子どもの「やってみたい」が親のプロジェクトへ変わります。
自主練は、本人が「少し投げたい」「打つ練習がしたい」と望んだときに、5~10分付き合う程度から十分です。短いキャッチボールや、柔らかい球を使ったティー打撃なら、成功感を保ちながら取り組めます。
親が野球未経験なら、無理に技術指導をする必要はありません。技術は監督やコーチへ任せ、親は球を渡す、動画を撮る、頑張りを見守る役割に回れます。私も試合や練習を撮影してきましたが、映像は子どもが見たいと言ったときだけ見せるようにしていました。記録は役立つ一方、押し付ければ逆効果になるからです。
「今日は何を練習する?」と本人に決めてもらい、時間が来たら終える。もっとやりたければ、本人から次を求める。その余白が、自分で選んで続ける力を育てます。
初心者を受け入れられるチームか、きれいごと抜きで見極める
「そんなことも知らない」は指導ではない――厳しさとスポハラの境界線
野球では、ときに厳しい声が必要だと言われます。安全に関わる行動や、仲間を傷つける態度には、明確な注意が必要です。しかし、「そんなことも知らないのか」「高学年なのに下手だな」と経験差そのものを責める言葉は、指導ではありません。
良い指導は、何が危険だったのか、次にどうすればよいのかを具体的に伝えます。一方、威圧や人格否定は、子どもを萎縮させても、判断材料を与えません。初心者ほど質問できなくなり、分からないまま動くため、かえって安全性も下がります。
見極めたいのは、大声があるかどうかだけではありません。ミスの後にやり直す機会があるか。指導者が子どもの話を聞くか。経験者によるからかいを放置していないか。困ったときに保護者が相談できるか。こうした日常の対応に、チームの安全観が表れます。
初心者を「根性がない」と切り捨てる文化は、本人の弱さではなく環境側の問題です。好きになる前の芽を、厳しさという言葉で摘まないようにしたいものです。
勝利を目指す練習と初心者対応は、本当に両立できないのか
初心者を受け入れると、基礎説明に時間がかかります。指導者の人数が限られたチームでは、経験者の練習量が減るという懸念も現実にあります。勝利を目指す以上、すべてを初心者基準にできないという意見にも一理あります。
ただし、初心者対応を「練習を止める作業」としか見ないのはもったいありません。経験者がキャッチボールの要点や守備の動きを初心者へ説明すれば、自分の動きを言語化する機会になります。分かったつもりだったルールを整理し直すことで、経験者の理解も深まります。
具体的には、練習全体を変えるのではなく、冒頭の15分だけ習熟別に分ける、バディが移動や用語を補助する、ミニゲームでは初心者にも判断できる役割を用意するといった方法があります。安全面の個別配慮は必要ですが、毎回一人の指導者が付きっきりになる設計だけが答えではありません。
日本スポーツ協会のスポーツ少年団とは―スポーツ少年団組織と活動のあり方の解説書(2025年度)でも、指導者だけでなく、役員・スタッフ、団員、保護者や地域住民からなる育成母集団が役割を分担して運営する考え方が示されています。初心者の定着を一人のコーチや一家庭の努力に任せず、チーム全体の仕事として考えることが必要です。
1か月後に確認したい、子どもの変化とチーム側の対応
入団から1か月たったら、上達だけでなく、子どもとチームの両方を確認します。
子どもについては、次の変化を見ます。
- 練習前の強い不安が少し和らいだか
- 一人でも話せる仲間ができたか
- 分からないことを質問できるか
- 小さくても役割を持てたか
- ミスの後に練習へ戻れているか
- 「もう一度行きたい」という気持ちが残っているか
同時に、チーム側も確認します。初心者向けの説明が継続されているか。いつまでも見学や球拾いだけになっていないか。失敗したときに具体的な助言があるか。仲間外れやからかいへ大人が対応しているか。
子どもが苦しんでいるとき、「慣れるまで我慢」と決めつけないでください。一方で、一度の失敗や注意だけで即座に悪いチームと断定する必要もありません。本人の話、練習の様子、指導者の説明を合わせて考えます。
改善を相談しても対応が変わらず、安心して参加できない状態が続くなら、移籍や退団も選択肢です。続けることだけを正解にすると、野球を守るために子どもの心を削る逆転が起きてしまいます。
「追いつくこと」だけをゴールにしない親子の選択
遅く始めても必ずレギュラーになれる、とは約束しない
遅く始めた子を励ますために、「努力すれば絶対に追いつける」「頑張ればレギュラーになれる」と言いたくなることがあります。しかし、その約束は親にも指導者にもできません。
選手層の厚さ、ポジション、成長速度、残された時間によって、結果は変わります。努力と結果は関係しますが、努力だけで他者との競争結果が決まるわけではありません。
だからこそ、約束する内容を変えます。「続ければ必ずレギュラーになれる」ではなく、「やってみたい気持ちを応援する」「困ったときは一緒に考える」「結果だけで価値を決めない」と伝えるのです。
試合に出られない時間があっても、練習でできることが増え、仲間との関係ができ、野球を面白いと感じられたなら、その経験には意味があります。レギュラーだけをゴールにすると、そこへ届かなかった時間がすべて失敗になってしまいます。
続ける・移る・やめるを本人が選び直せることも立派な成長
始めた以上、最後まで続けることを美徳とする考え方があります。もちろん、簡単に投げ出さず工夫する経験は大切です。ただし、継続そのものを絶対的な価値にすると、合わない環境から離れられなくなります。
私の息子も、中学では軟式野球部に入り、高校で硬式野球へ進もうとしましたが、レベルや環境の違いに悩み、最終的に野球部へ入らない選択をしました。続けさせるか迷いはありましたが、本人の判断に任せた経験があります。
また、同じ家庭でも、長男は野球を選び、次男は野球を拒否して陸上を選びました。親が良いと思った経験を、兄弟へそのまま再現できるわけではありません。
始めると決めた子には、選び直す権利もあります。今のチームで続ける。別のチームへ移る。別の競技を試す。プレーはやめて観戦を楽しむ。自分の感覚を確かめて決断できたなら、それも立派な成長です。
野球で得た仲間、役割、会話はプレーをやめても残る
野球をやめたら、費やした時間が無駄になるのでしょうか。私はそうは思いません。
息子は高校で野球部へ入りませんでしたが、地域の方々との家族ぐるみの付き合いは続きました。OBとして小学生のソフトボールを手伝い、中学校や小学校の試合を一緒に観戦する関わりも残りました。プレーヤーとしての道が変わっても、野球を通じてできた縁や楽しみは消えなかったのです。
遅く始めた子も、選手として大きな結果を残すとは限りません。それでも、仲間の名前を覚えたこと、チームで役割を持ったこと、失敗後にもう一度挑戦したこと、親子で野球について話したことは残ります。
野球は、続けた年数やレギュラー歴だけで価値が決まるものではありません。「見る・支える・語る」楽しみもあります。プレーをやめても、野球との関係まで終わらせる必要はないのです。

まとめ
遅いスタートの子に必要な五つ――安全、成功、役割、仲間、選び直す余白
遅く野球を始める子に必要なのは、経験者へ急いで追いつかせる特訓ではありません。最初に整えたいのは、次の五つです。
1. 分からないと言えて、威圧やからかいから守られる「安全」 2. 柔らかい球や簡単な実戦で得られる「小さな成功」 3. 打席、守備、走塁、声掛けなどの「役割」 4. 名前を呼び、動きを助けてくれる「仲間」 5. 続ける、移る、やめるを本人が決められる「選び直す余白」
この五つがあれば、経験差がすぐ消えなくても、本人には成長する時間が生まれます。反対に、いくら練習量を増やしても、失敗を笑われ、役割がなく、質問できない環境では、野球を好きになる前に心が離れてしまいます。
明日できる一歩は、練習を増やすことではなく一つ質問すること
もし子どもが途中入団を迷っているなら、明日から素振りを100回させる必要はありません。まず、チームへ一つ質問してみてください。
「初心者の最初の1か月は、何をどの順番で教えていますか」
すでに入団しているなら、子どもへ聞いてみましょう。
「今日は何が面白かった?」
この一問から、本人が求めているもの、困っていること、チームの受け入れ方が見えてきます。情報が分かれば、道具、送迎、練習、相談先を一つずつ整えられます。
親が焦って答えを出すより、子どもとチームへ具体的に尋ねる。その姿勢が、遅いスタートを無謀な挑戦から、現実的な一歩へ変えます。
好きになる機会を大人が閉じず、親子の今しかない時間を楽しもう
縄野二翌選手の物語から受け取りたいのは、「遅く始めても必ず成功できる」という保証ではありません。「始める資格を、過去の経験年数だけで決めなくてよい」というメッセージです。
親は子どもの未来を心配するからこそ、失敗しそうな道を避けさせたくなります。しかし、好きになる前に入口を閉じてしまえば、本人は自分に何が合うのかを知ることもできません。
無理はさせない。けれど、放置もしない。技術をコントロールするのではなく、安全に試せる環境と、戻って話せる家庭を整える。それが未経験パパにもできる、確かな支え方です。
野球を続けても、途中で別の道を選んでも、親子で一緒に迷い、話し、応援した時間は残ります。今しかないその時間を、結果だけで急いで採点せず、一緒に楽しんでいきましょう。
