原口あきまさ流「野球を嫌いにさせない」子育て術|やる気ゼロの息子が涙を流すまでの軌跡
はじめに:「うちの子、野球辞めたいのかな…」そのサイン、見逃していませんか?
筆者の告白「息子に『辞めたい』と言われて頭が真っ白になった日」
「もう、野球、辞めたい…」
練習から帰ってきた息子の、ポツリとした呟き。その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になり、心臓がどきりと音を立てたのを今でも鮮明に覚えています。毎週のように練習に付き添い、泥だらけのユニフォームを洗い、時には試合の結果に一喜一憂する。そんな日々が、親である私にとっても生活の一部、いえ、生きがいそのものになっていました。だからこそ、その一言はあまりにも衝撃的でした。
「どうして?」「あんなに楽しそうだったじゃないか」「今辞めたら後悔するぞ」。喉まで出かかった言葉を、なんとか飲み込むのが精一杯でした。きっと、多くの少年野球パパ・ママが、一度は同じような不安や焦りを感じたことがあるのではないでしょうか。
なぜ今、ものまねタレント・原口あきまささんの「野球子育て」が注目されるのか?
そんな悩める親たちの間で今、大きな注目と共感を集めているのが、ものまねタレントの原口あきまささんが実践する「野球子育て」です。
4人の息子さん全員が野球に打ち込む「野球一家」として知られる原口家。その日常や子育てへの想いがSNSやインタビューで語られるたび、「理想の親子関係だ」「うちも見習いたい」という声が数多く寄せられています。
しかし、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。特に、現在小学4年生の三男・タイガくんが見せた劇的な変化の物語が、私たちの心に強く訴えかけます。
やる気ゼロ→号泣するほど夢中に。三男のビフォーアフターが示す「環境」の力
原口さんが自身のインスタグラムで公開した一本の動画。それは、タイガくんの成長の軌跡を記録したものでした。
年長のころ、野球を始めたばかりのタイガくんは、まさに「やらされている野球」の真っ只中。試合中にあくびをしたり、監督のサインを無視してバットを振り回したりと、お世辞にもやる気があるとは言えない姿でした。
ところが、動画の後半に映し出されるのは、全くの別人です。
「絶対勝ちたい。絶対打たせない。負けたくない」
初めて自らの口から強い意志を語り、マウンドに立つその姿からは本気が伝わってきます。試合でスリーベースヒットを放ち、力強いガッツポーズ。そして、試合に敗れ、悔しさのあまりグラウンドに倒れ込み、号泣する姿。
原口さんは「見ているだけで涙出てきた」「彼の一生懸命さに涙が止まらなかった」と、その時の感動を語っています。
一体、何が彼を変えたのでしょうか?この記事では、やる気ゼロだった一人の少年が野球に情熱を燃やすまでの軌跡を、原口家の哲学やコミュニケーション術から紐解き、私たち親が今日から実践できる「子どもの心に火をつけるヒント」を探っていきます。
原口あきまさ流・子育ての核心「#野球を嫌いにさせない」という哲学

自身が野球をできなかった原体験がすべての原点
原口さんのインスタグラムには「#ただただ野球を嫌いにならないで欲しい」というハッシュタグが、繰り返し登場します。この短い言葉には、彼の少年時代の忘れられない経験が深く刻まれています。
子どもの頃、どうしても野球がやりたかった原口少年。父親に「バット買ってきて」とお願いしました。しかし、元自衛官だったお父様が買ってきたのは、バットではなく竹刀。経済的な理由、そして「自衛官の息子は無料で剣道を教えてもらえる」という事情から、その願いが叶うことはありませんでした。
剣道の道に進み、高校推薦を受けるほどの実力をつけたものの、野球への情熱は消えることなく、テレビ観戦はいつも野球ばかりだったと言います。
親の願いはただ一つ「自分のやりたいことをやってほしい」
この経験があるからこそ、原口さんは息子さんたちに特別な想いを抱いています。
「自分が小さい頃やりたくてもやれなかったことを子どもがやってくれているんですから」
次男が初めて「野球やる」と言ってくれた時、心から嬉しかったそうです。この経験が、「自分のやりたいことをやってほしい」「本当にやりたいことなら全面協力する」という、原口家の子育ての揺るぎない基盤となっています。
親であれば誰しも、子どもに「こうなってほしい」という願いを持つものです。しかし、その願いが強すぎるあまり、いつの間にか親の夢を子どもに押し付けてしまうことがあります。
読者への問いかけ「私たちは子供に”野球選手”になってほしいのか、”野球を愛する人”になってほしいのか」
ここで一度、私たち自身に問いかけてみたいと思います。
私たちは、子どもに将来「プロ野球選手」になってほしいのでしょうか?それとも、生涯を通して「野球を愛する人」になってほしいのでしょうか?
もちろん、両方であれば最高です。しかし、もしどちらか一つを選ぶとしたら、どちらでしょう。原口さんのスタンスは、明確に後者です。だからこそ、彼の哲学は「#野球を嫌いにさせない」という言葉に集約されるのです。この視点を持つだけで、子どもの練習や試合を見る目、かける言葉が、きっと大きく変わってくるはずです。
「環境が人を成長させる」― やる気のなかった息子に火をつけた3つの環境要因
原口さんは、三男タイガくんの成長を記録した動画に、こうハッシュタグを添えました。
「#環境が人を成長させる」
これは、三男の変化が、親による直接的な説得や強制の結果ではないことを示唆しています。親が子どもの「やる気スイッチ」を無理やり押すのではなく、子どもが自らの意志でスイッチを見つけ、押すことができるような「環境」を整えること。それこそが親の最も重要な役割だと、原口さんは考えているのです。
では、その「環境」とは具体的に何を指すのでしょうか。
【要因1:仲間の存在】「みんなで育ててもらう」団体競技の素晴らしさ
「団体競技って素晴らしい!子どもたち同士で励まし合って、ピンチの時にみんなで力を合わせて乗り越える。家族だけじゃ与えられないものです。みんなに育ててもらっていると思います」
原口さんは、チームという環境の価値をこう語ります。
野球というスポーツを通じて、子どもたちは技術だけでなく、挨拶、礼儀作法、返事の仕方といった、人間として大切な基本を自然と学んでいきます。原口家では「ありがとう・ごめんなさい」といった基本的な挨拶を徹底していますが、それも野球というチームプレーの中でさらに磨かれていくのです。
親だけでは教えきれない社会性や協調性を、仲間との関わりの中で育んでくれる。これも「環境」が持つ大きな力の一つです。
【要因2:挑戦の場】「もっと強いチームで」子どもの意志を尊重したクラブチーム移籍
2024年、原口家の4人の息子さんたちは、学校のチームからクラブチームへ移籍するという大きな決断をしました。それは「もっと強いチームで野球をしたい」という子どもたち自身の希望を、親が全面的に尊重した結果でした。
クラブチームには当然、レベルの高い選手が集まります。しかし、年長である四男でさえ「すごく楽しい!」と目を輝かせているそうです。
タイガくんの心に火がついた大きなきっかけも、この「本気で野球に向き合う仲間」との出会いであったことは想像に難くありません。原口さんが使う「#仲間の意味」というハッシュタグは、切磋琢磨できる仲間の存在が、何よりのモチベーションになることを物語っています。
【要因3:家族の支え】母親の手作りお守りに込められた「見えないサポート」の力
タイガくんが劇的な成長を見せた試合の後、彼はこう言ったそうです。
「お母さんのお守りのお陰で、スリーベースヒット打てた、ありがとう」
妻のめぐみさんが、子どもたち一人ひとりの背番号を入れて作ったユニフォーム型のお守り。それは、ただの飾りではありません。常に自分を応援し、信じてくれている存在がいる、という安心感の象徴です。
目に見えるサポートだけでなく、こうした「見えないサポート」が子どもの心を強くし、「家族のために頑張ろう」という力を引き出すのです。
家庭で実践!原口家のコミュニケーション術「一日一笑ほのぼの家族」

子どもが野球に夢中になれる「環境」の土台は、家庭にあります。原口家が掲げるテーマは「一日一笑(いちにちいっしょう)ほのぼの家族」。
「毎日を『笑顔で過ごそう!』という気持ちが大きい。もちろん怒る日だってあるけれど、怒るより奥さんの笑顔、子どもたちの笑顔を見ておきたい」
この素敵なテーマを実現するために、原口家ではユニークで温かいコミュニケーションが日々交わされています。
なぜ叱る時にまで「野球」に繋げるのか?その教育的意図とは
原口家では、子どもを叱る際に何でも野球に結びつける、という面白いルールがあります。
「右手ばかり使って左手使わないからプレーでグローブ出ないんだ!」
「3回呼んだのに気づかなかっただろ?だからベンチの声聞こえないんだ!」
これは単なるこじつけではありません。「挨拶・礼儀・返事・集中力」といった、団体競技を通じて学ぶべき人間性の基本を、日常生活の中で常に意識させるための、愛情のこもった教育的アプローチなのです。家族みんなで「(くるぞくるぞ、野球のくだり!)」と笑いながら待つのが恒例になっているというエピソードからも、家庭の温かい雰囲気が伝わってきます。
どんなに忙しくても「いったん手を止めて話を聞く」母親の姿勢
妻のめぐみさんは、子育てにおいて一つのことを徹底していると言います。
「何をしていても、子どもに話しかけられたらいったん手を止めてから話を聞くようにしています」
これは、以前所属していた学童野球の監督からの受け売りだそうですが、その意味は非常に深いものです。忙しさにかまけて子どもの話を上の空で聞いたり、遮ったりしてしまうと、子どもは「自分の話は重要ではないんだ」と感じ、自己肯定感を下げてしまいます。
子どもの言葉一つひとつを大切に受け止める。その積み重ねが、親子の揺るぎない信頼関係を築き上げていくのです。
「口答えでもいい」父親が本音のぶつかり合いを歓迎する理由
原口さん自身、自分の父親と本音でぶつかれなかった後悔があるからこそ、息子たちには「口答えでもいいから、親に隠さずぶつけてほしい」と願っています。
感情を内に溜め込ませず、吐き出せる関係性を重視する。息子さんと口論になった後は、たとえ自分に非がないと感じても「言いすぎてごめん」と謝ることを実践しているそうです。この対等なコミュニケーションへの意識が、子どもが安心して本音を話せる安全地帯を作り出しています。
低学年の親は必見!つい熱くなる親の熱意が空回りしないためのヒント
特に低学年のうちは、本人のやる気よりも親の熱意が空回りしがちですよね。わが子に上手くなってほしい、試合で活躍してほしいと願うあまり、つい厳しい言葉をかけてしまったり、練習を強制してしまったり…。
しかし、原口家のあり方は、そんな私たちに大切なことを教えてくれます。親が熱心になるべきは、技術指導や戦術論ではありません。子どもが安心して話せる雰囲気を作り、どんな時も一番の理解者でいてあげること。それこそが、遠回りのようで一番の近道なのです。
それでも子どもが「辞めたい」と言った時…親が取るべき3ステップ
どんなに素晴らしい環境を整えても、子どもが「野球、辞めたい」と言う日は来るかもしれません。その言葉は、親にとって非常にショッキングなものです。しかし、それは子どもが発する重要なSOSのサインでもあります。感情的に対応するのではなく、冷静かつ建設的なアプローチが不可欠です。
【ステップ1:徹底的に聞く】「逃げ」と決めつけず、SOSの背景を理解する
まず最も優先すべきは、子どもの話を真剣に、最後まで聞くことです。
「辞めたい」という言葉の裏には、様々な理由が隠されています。
- 人間関係のトラブル: チームメイトとの不和、指導者からの厳しい叱責など。
- 上達への悩み: 練習しても上手くならず、劣等感を感じている。
- 楽しさの喪失: 勝利至上主義や厳しい練習についていけない。
- 親からのプレッシャー: 親の過度な期待が重荷になっている。
これらの理由を、「根性がない」「逃げている」と決めつけるのは絶対にNGです。何が問題なのか、辞めたい気持ちは本物か、辞めた後どうしたいのかを、時間をかけて親子で話し合いましょう。
【ステップ2:専門家を頼る】一人で抱え込まず監督やコーチに相談する重要性
親だけで解決しようとせず、チームの関係者に相談することも非常に重要です。監督、コーチ、あるいは話しやすい父母会長など、第三者の視点が入ることで、問題解決の糸口が見つかることがあります。
子どもが指導者に直接言えない不満を親が代弁することで、チーム内の環境が改善されるケースも少なくありません。また、チーム側にとっても、問題を早期に把握し、対応する貴重な機会となります。
【ステップ3:決断を尊重する】「続ける」だけが正解ではない。辞める決断のマナー
親子で話し合い、チームにも相談した上で、それでも「辞める」という決断に至ることもあるでしょう。その時は、その決断を尊重してあげてください。時には、続けることだけが正解ではない場合もあります。
辞めることが決まったら、速やかにチームに連絡するのがマナーです。選手登録の変更やポジションの再編成など、チームは今後の対応を考える必要があります。引き留められるのが気まずいと感じるかもしれませんが、チームへの迷惑を最小限に抑えるためにも、誠実な対応を心がけましょう。
子どもの「内なるやる気」に火をつける心理学
原口家の事例は、教育心理学の観点からも非常に理にかなっています。子どもの持続的な活動意欲の鍵は、内側から湧き出る興味や関心に基づく「内発的動機付け」にあるとされています。
「やらされる練習」から「やりたい練習」へ(内発的動機付け)
賞罰によって行動をコントロールしようとするのが「外発的動機付け」であるのに対し、活動そのものへの楽しさや知的好奇心から行動するのが内発的動機付けです。
親が「練習しなさい!」と命令したり、「ホームランを打ったらご褒美」で釣ったりするのは、前者の典型です。これでは、親が見ていないと練習しなかったり、ご褒美がないと頑張れなかったりするようになりがちです。
原口家のように、親が直接的に介入するのではなく、野球の楽しさ自体を感じられる「環境」を整えることで、子どもは自ら「上手くなりたい」「勝ちたい」と感じるようになり、内発的動機付けが育まれていくのです。
小さな成功体験を積み重ね、自信を育む方法(自己効力感)
「自分はできる」という自信や感覚を、心理学では自己効力感と呼びます。この自己効力感を高めるには、最初から高い目標を掲げるのではなく、「頑張れば必ず到達できる」ような具体的な目標を設定し、達成感を与えることが重要です。
「今日は素振りを10回できたね」「前より大きな声が出せるようになったね」。そんな小さな成功体験を親が一緒に見つけ、認めてあげることで、子どもは自信をつけ、次のより高い目標へと挑戦する意欲が湧いてきます。
「〇〇ちゃんはできるのに…」はNGワード!他人と比較しないことの重要性
子どものやる気を削ぐ最も典型的なNG行動が、他人との比較です。
「〇〇くんはもうレギュラーなのに、あなたは何で…」
親としては励ましているつもりでも、子どもは「それに比べてあなたはダメだ」という強烈な否定のメッセージとして受け取ります。比較対象は、常に「過去の自分」であるべきです。「昨日より一歩でも前に進めたこと」を褒めてあげる。その積み重ねが、健全な自己肯定感を育みます。
まとめ:最高の野球パパ・ママとは「最高のファン」であること

原口あきまさ流から学ぶ、今日から真似できる3つの心得
原口あきまささんの「野球子育て」の物語は、私たちに多くのことを教えてくれます。最後に、今日から誰もが実践できる3つの心得をまとめました。
- 子どもの「やりたい」を信じて、待つ勇気を持つ。
タイガくんは、やる気のスイッチが入るまで4年かかりました。結果を急かさず、子どものペースを信じて見守る忍耐力が、親には必要です。 - 「野球を嫌いにさせない」をすべての判断基準にする。
練習メニュー、試合での起用、かける言葉…その全てが「子どもは野球をもっと好きになるか?」というフィルターを通して判断しましょう。 - 家族全体で「一日一笑」の温かい環境をつくる。
夫婦が笑顔でいること。家庭が安心できる場所であること。それが、子どもがどんな困難にも立ち向かうための最大のエネルギー源になります。
勝ち負けの先にあるもの ― 野球を通して子どもに本当に得てほしいもの
私たちは、子どもに野球を通して何を学んでほしいのでしょうか。勝利の喜びや技術の向上はもちろん素晴らしいことです。しかし、それ以上に、仲間と協力することの大切さ、努力することの尊さ、そして礼儀や感謝の心といった、人としての土台を築いてほしいと願っているのではないでしょうか。
原口さんの「#野球をやってる姿があとどのくらい見れるかな?」という言葉には、勝敗を超えた、かけがえのない時間への愛情が込められています。
限られた少年野球の時間を、親子にとって最高の思い出にするために
少年野球の時間は、永遠ではありません。子どもがユニフォームを着てグラウンドを駆け回る姿を見られるのは、人生のうちのほんの数年間です。
その限られた時間を、親子にとって最高の思い出にするために、私たち親ができること。それは、技術を教えるコーチになることではなく、どんな時もわが子の最大の理解者であり、熱烈な「ファン」であり続けることなのかもしれません。
原口家の物語を道しるべに、子どもたちの「今」を全力で応援していきましょう。