- そもそも、なぜ子どもはボールを怖がってしまうのか?3つの心理的メカニズム
- [1] そもそも、なぜ子どもはボールを怖がってしまうのか?3つの心理的メカニズム
- [2] 本格的な練習の前に!親として絶対に知っておくべき「3つの心構え」
- [3] 【ステップ1:心の準備編】親子で遊びながら、ボールへの恐怖心を和らげるウォーミングアップ
- [4] 【ステップ2:自宅練習編】旧常識を捨て、プロも実践する最新ブロッキング理論の基礎を学ぶ
- [5] 【ステップ3:実践ドリル編】恐怖心を自信に変える、段階的ショートバウンド捕球練習
- [6] 【技術応用編】ワンランク上のキャッチャーを目指すための3つの視点
- [7] まとめ:技術の前に、親子の信頼関係こそが最高の成長エンジン
そもそも、なぜ子どもはボールを怖がってしまうのか?3つの心理的メカニズム
「なぜ、うちの子はボールを怖がってしまうんだろう…」「キャッチャーを辞めたいと言い出したらどうしよう…」
マウンドから投げられるボール、特に手前で不規則に弾むショートバウンドに、息子さんが体をこわばらせる姿を見るのは、親として本当に辛いものですよね。私自身も、息子のそんな姿を見て、どう声をかけていいか、何を教えればいいのか、深く悩んだ経験があります。
しかし、断言します。その恐怖心は、気合や根性で乗り越えるものではありません。正しい知識と段階的な練習、そして何よりも親であるあなたの関わり方次第で、必ず克服できるものです。技術指導よりも大切だったのは、子どもの心に寄り添い、安全な環境で「できた!」という小さな成功体験を積み重ねさせてあげることでした。
この記事では、単なる技術論に終始しません。私自身の父親としての失敗や試行錯誤の経験を踏まえ、ボールへの恐怖心を「安心感」に変え、捕逸を自信に変えるための具体的なステップを、親子のコミュニケーション術と共にご紹介します。この記事を読み終える頃には、あなたは息子さんにとっての「最高のコーチ」ではなく、「最高のサポーター」になっているはずです。
実は先日、同じように悩む野球仲間と、ついグラウンドで立ち話になったんです。この記事でお伝えしたい想いが、まさにその会話に詰まっています。少しだけ、耳を傾けてみてください。
いかがでしたか。そう、悩んでいるのは、あなた一人ではありません。
では、ここからは、この根深い問題を解決するための具体的なステップを、私の経験も交えながら、一つひとつ見ていきましょう。
[1] そもそも、なぜ子どもはボールを怖がってしまうのか?3つの心理的メカニズム
恐怖心を克服するための第一歩は、その原因を正しく理解することです。なぜ子どもはボールを怖がってしまうのか。その背景には、単なる「弱気」や「やる気のなさ」では片付けられない、人間としてごく自然な心理が働いています。
[1-1] 避けられない「防御本能」と「反射」の壁
まず理解すべきは、硬いボールが自分に向かって飛んでくるとき、人は無意識に身を守ろうとする、ということです。これは「自己保存の本能」であり、特に顔や急所といった大切な部分を守るための、脳に深く刻まれたプログラムです。
少年野球で使われる軟式球といえども、小学生の身体にとっては十分に硬く、速く感じられます。そのボールが、時として10メートル少しの距離から、予測不能なバウンドをして向かってくるのです。この状況で、とっさに目をつぶってしまったり、顔を背けてしまったりするのは、人間として極めて正常な「反射」なのです。
「ボールから目を離すな!」と口で言うのは簡単ですが、本能や反射に逆らうのは、大人でも至難の業。子どもが怖がるのは、臆病だからではなく、自分の身体を守ろうとする本能が正しく働いている証拠なのだと、まずは親が理解してあげることが重要です。
[1-2] 「痛かった」「怒られた」…過去の失敗体験が作る恐怖の悪循環
子どもの心は、真っ白なキャンバスのようなものです。そこに、ネガティブな体験が一度描かれてしまうと、なかなか消すことはできません。
- 身体的な痛み: 過去に顔や身体の痛いところにボールが当たった経験。特に、防具の隙間や指先などに当たった時の鋭い痛みは、強烈な記憶として残ります。
- 精神的な痛み: 捕逸してしまった時に、監督やコーチから厳しく叱責されたり、チームメイトからため息をつかれたりした経験。「自分のせいで試合に負けた」と感じた罪悪感。
これらの「痛み」の記憶は、ボールが飛んでくるたびにフラッシュバックし、「また痛い思いをするかもしれない」「また失敗して怒られるかもしれない」という予期不安を掻き立てます。
この状態が続くと、「怖い → 体が硬直する → 捕球に失敗する → 怒られる → さらに恐怖心が強くなる」という、最悪の悪循環に陥ってしまいます。このサイクルを断ち切らない限り、いくら技術練習を繰り返しても、根本的な解決には至りません。
[1-3] まずは受け入れよう。恐怖心は「あって当たり前」の感情
ここまで見てきたように、子どもがボールを怖がるのは、サボっているわけでも、やる気がないわけでもありません。それは、人間の本能と、過去の経験からくる、至極当然の感情なのです。
親として、まず最初にすべきこと。それは、「ボールが怖い」という息子の気持ちを、100%肯定し、受け入れてあげることです。
「そうか、怖いよな。パパも子どもの頃はそうだったよ」
「無理もないよ。あんなに硬いボールが飛んでくるんだから」
このように、子どもの感情に寄り添い、共感を示すだけで、子どもの心は少し軽くなります。「この気持ちを分かってくれる人がいる」という安心感が、恐怖心と向き合うための最初のエネルギーになるのです。決して、「男だろ!」「気合が足りない!」といった言葉で、子どもの感情を否定してはいけません。
[2] 本格的な練習の前に!親として絶対に知っておくべき「3つの心構え」
子どもの恐怖心のメカニズムを理解したら、次はいよいよ練習…と、その前に。最も大切な、親自身の心構えについてお話しさせてください。ここを間違えると、どんなに優れた練習法も効果が半減してしまいます。
[2-1] あなたは「コーチ」ではない。「最高のサポーター」であれ
私もそうでしたが、我が子を思うあまり、つい熱心な「コーチ」になってしまいがちです。「もっと腰を落とせ!」「脇を締めろ!」と、技術的なアドバイスを次々としてしまう。しかし、これは多くの場合、逆効果です。
チームには、技術を教える専門家である監督やコーチがいます。親の役割は、それとは異なります。親がすべきなのは、技術指導者になることではなく、子どもが安心して野球に取り組める環境を作り、その心を支える「最高のサポーター」であることです。
サポーターの仕事は、子どもが練習で上手くいかずに落ち込んでいる時に、「ドンマイ!」「今の惜しかったね!」と励ますこと。小さな成功を見つけて、「今の捕り方、すごく良かったよ!」と具体的に褒めてあげること。そして何より、野球の結果に関わらず、「パパはいつでもお前の味方だよ」という絶対的な安心感を与え続けることです。
コーチとサポーター、この役割分担を意識するだけで、親子の関係は劇的に改善し、子どもの野球への意欲も変わってきます。
[2-2] 「なんでできないんだ!」はNGワード!子どもの自己肯定感を奪う言葉、伸ばす言葉
言葉は、薬にもなれば、毒にもなります。特に、親から子への言葉は、その子の自己肯定感(自分は価値のある人間だと思える感覚)を形成する上で、絶大な影響力を持ちます。
【絶対に言ってはいけないNGワード】
- 「なんで、こんな簡単なことができないんだ!」
→子どもは「自分はダメな人間なんだ」と感じ、挑戦する意欲を失います。 - 「〇〇君はできているのに…」
→他人との比較は、劣等感と嫉妬心しか生みません。 - 「だからお前はダメなんだ」
→プレーの失敗を、子どもの人格そのものの否定にすり替える最悪の言葉です。 - 「もうやめてしまえ!」
→子どもの逃げ場をなくし、追い詰めるだけの言葉です。
【子どもの自己肯定感を育む言葉】
- 「ナイスチャレンジ!勇気を出して前に出られたね」
→結果ではなく、挑戦した「過程」や「勇気」を褒めます。 - 「前よりボールに近づけるようになったね!」
→他人ではなく、「過去の本人」と比べて成長を伝えます。 - 「今の、何が怖かった?一緒に考えてみようか」
→失敗の原因を問い詰めるのではなく、寄り添い、共に考える姿勢を見せます。 - 「疲れたら休んでいいんだよ。また明日やろう」
→努力を認めつつ、逃げ道や休息の必要性を肯定してあげます。
これらの言葉を意識するだけで、子どもは失敗を恐れず、安心して練習に取り組めるようになります。
[2-3] 技術よりまず安全。子どもの心を守る「信頼できる防具」の選び方
心のサポートと同じくらい重要なのが、物理的な安全の確保です。どれだけ「大丈夫だ」と声をかけても、体に強い衝撃を受ければ、恐怖心は再燃してしまいます。
特に、キャッチャー防具は子どもの身体と心を守るための「鎧」です。サイズが合っていなかったり、機能が不十分だったりする防具を使い続けるのは、絶対にやめましょう。
【防具選びのチェックポイント】
- マスク: 顔にしっかりとフィットし、視界が良好なものを選びましょう。ボールが当たった時にズレてしまうようなものは危険です。
- プロテクター: 首元からお腹、肩までをしっかりとカバーできるサイズかを確認します。体にフィットせず、隙間ができてしまうものはNGです。
- レガース: 膝のお皿を完全に覆い、足首までしっかりガードできる長さのものを選びましょう。動きやすさも重要なので、実際にしゃがんでもらって確認することが大切です。
- ファウルカップ: 忘れがちですが、急所を守るために絶対に必要です。必ず着用する習慣をつけさせましょう。
少し値段が張るかもしれませんが、ここは子どもの安全のための必要経費です。「この防具があれば絶対に大丈夫だ」と子ども自身が思えるような、信頼できる防具を親子で一緒に選んであげてください。その安心感が、ボールに向かっていく勇気を生み出します。
[3] 【ステップ1:心の準備編】親子で遊びながら、ボールへの恐怖心を和らげるウォーミングアップ

親の心構えが整ったら、いよいよ練習の開始です。しかし、いきなりグラウンドで硬いボールを捕る練習を始めてはいけません。まずは、恐怖心を和らげ、ボールに慣れるための「心のウォーミングアップ」から始めましょう。このステップの目的は、技術の上達ではなく、「野球って楽しい!」「ボールって怖くない!」というポジティブな感情を育むことです。
[3-1] 柔らかいボールで「当たっても大丈夫」を身体に染み込ませる
恐怖心を克服する最も効果的な方法は、安全な環境で「成功体験」を積むことです。そのために最適なのが、当たっても全く痛くない柔らかいボールを使うことです。
新聞紙を丸めてテープで巻いたボール、スポンジボール、ウレタン製のカラーボールなど、100円ショップで手に入るもので十分です。
【練習メニュー例】
- 至近距離キャッチボール: 親子で1〜2mの距離に座り、まずは下から優しくトスしてあげます。「ポーン」と胸で受け止めさせてみましょう。「ほら、全然痛くないだろ?」と笑いながら声をかけてあげてください。
- ボディキャッチゲーム: 少し慣れてきたら、意図的に身体にボールを当ててみます。「お腹でキャッチ!」「足でトラップ!」など、サッカーのようにゲーム感覚で楽しむのがコツです。子どもが笑いながらボールに触れることで、「ボール=楽しいもの」というイメージが刷り込まれていきます。
この練習で大切なのは、絶対に硬い表情を見せず、親自身が心から楽しむことです。親の楽しそうな雰囲気は、子どもに伝染します。
[3-2] 防具は君の鎧だ!プロテクターの信頼感を高める「ボディタッチ練習」
柔らかいボールに慣れたら、次は防具の信頼感を高めるステップです。前項で選んだ、信頼できる防具一式を装着させます。
【練習メニュー例】
- 防具タッチング: まずは親が、「ここは硬いね」「ここもしっかり守られてるね」と言いながら、マスクやプロテクターをコンコンと叩いてあげます。これにより、防具がどれだけ頑丈かを視覚と聴覚で理解させます。
- ソフトボール・ボディ当て: 次に、柔らかいボールを使い、防具の上から軽く投げ当ててあげます。「ほら、プロテクターが全部はじいてくれるぞ!」「マスクがあれば顔もへっちゃらだ!」と、防具の性能を実況中継するように伝えます。
この練習の目的は、子ども自身に「この防具を着ていれば、自分は絶対に安全なんだ」という絶対的な信頼感を持たせることです。この安心感が、硬いボールに立ち向かうための心の土台となります。
[3-3] 逆転の発想!「捕る」のではなく「避ける」練習から始める効果とは
意外に思われるかもしれませんが、恐怖心が強い子には、「捕る」練習の前に「避ける」練習が非常に効果的です。
【練習メニュー例】
- ボールよけゲーム: 大きめの柔らかいボール(ビーチボールなど)を使い、親がゆっくりと子どもに向かって転がしたり、投げたりします。子どものミッションは、ボールに当たらないように、俊敏に左右に動いて避けることです。
- 目的は「ボールから目を離さない」こと: このゲームで最も重要なルールは、「最後までボールの動きから絶対に目を離さないこと」です。ボールを避けるためには、その軌道を最後まで見極める必要があります。
怖がる子は、ボールが来た瞬間に目をつぶってしまうため、どこにボールが来るか分からず、余計に恐怖を感じてしまいます。この「避ける」練習を繰り返すことで、自然とボールを最後まで見る習慣が身につき、「ボールの動きをコントロールできている」という感覚が芽生えます。この感覚こそが、次の「捕球」のステップに繋がる自信の源泉となるのです。
[4] 【ステップ2:自宅練習編】旧常識を捨て、プロも実践する最新ブロッキング理論の基礎を学ぶ
心の準備が整い、ボールへの恐怖心が和らいできたら、いよいよ技術練習の基礎に入ります。しかし、ここで昔ながらの根性論や古い常識を持ち出してはいけません。現代の野球では、より合理的で、身体への負担が少ないブロッキング理論が主流となっています。このステップでは、自宅の省スペースでもできる、最新理論に基づいた基礎フォームの習得を目指します。
[4-1] 旧常識「膝からつく」はNG!俊敏性を奪う動きと、新常識「手→足」のリズム
かつて、多くの指導現場では「ワンバウンドは、まず膝から地面につけ!」と教えられてきました。しかし、この方法は動作がワンテンポ遅れる原因となり、特に左右に逸れたボールへの対応が難しくなることが分かっています。膝を支点にしてしまうと、上半身の動きがロックされ、俊敏性が失われてしまうのです。
現代のプロ野球で推奨されているのは、「手が先、足が後」という動作のリズムです。しゃがんだ状態から、ボールに向かってまず両手を地面につき、その動きに連動して膝が地面についてくる、というイメージです。この動きによって、重心移動がスムーズになり、どんなボールにも素早く反応できるようになります。これは、福岡ソフトバンクホークスのキャンプでも指導された、非常に実践的な理論です。
この新しい動きを、まずは親子で「こういう動き方があるんだね」と、知識として共有することから始めてみてください。
[4-2] 道具は不要!自宅でできる最強ドリル「カエルジャンプ」で正しいリズム感を養う
「手→足」のリズムを身体に染み込ませるために、非常に効果的なドリルがあります。それが、道具を一切使わずに、自宅の布団の上などでもできる「カエルジャンプ」です。
【カエルジャンプのやり方】
- まず、キャッチャーの基本姿勢でしゃがみます。
- 心の中で「1、2」と軽くリズムをとります。
- 「3」のタイミングで、腕だけでなく上半身全体を前に倒すイメージで、両手を前方の地面(または布団)につきます。
- 「4」のタイミングで、両手で体を支えながら、カエルのように後ろ足を軽く跳ね上げます。
この「1、2、3、4」というリズミカルな動きを繰り返すことで、ブロッキングに必要な「手が先、足が後」という身体の使い方が、理屈ではなく感覚として自然に身についていきます。最初はゆっくりで構いません。親子で一緒に、「せーの!」と声を合わせながら、ゲーム感覚で楽しんでみてください。慣れてきたら、手を左右に振りながらジャンプすることで、様々なコースに対応する応用練習にも発展します。
[4-3] 鏡の前で親子でチェック!ボールを前に落とすための「壁」の作り方
ブロッキングの目的は、ボールを遠くに弾き飛ばすことではなく、衝撃を吸収して、自分の身体の前にポトリと落とすことです。そのためには、身体で頑丈な「壁」を作る必要があります。この「壁」のフォームは、大きな鏡や窓ガラスに姿を映しながら親子でチェックするのが効果的です。
【壁作りのチェックポイント】
- 上半身の角度: 身体を地面と垂直に立てるのではなく、少しだけ前に傾けます(やや猫背気味)。こうすることで、ボールが当たった時の衝撃をスポンジのように吸収でき、勢いを殺すことができます。
- アゴを引く: アゴが上がってしまうと、上半身が起きてボールを弾きやすくなるだけでなく、喉にボールが当たる危険性も高まります。「ボールにお辞儀するようなイメージだよ」と伝えてあげましょう。
- ミットの位置: 両膝の間のスペースを、ミットで完全に塞ぎます。「ここからボールは通さないぞ」と、壁の隙間をなくす意識が大切です。
- 投げる方の手(右手): 怪我防止のため、必ずミットの後ろに隠すか、身体の横に添えるように指導してください。ボールを捕りにいこうとして前に出すのは絶対にNGです。
これらのポイントを、鏡を見ながら一つひとつ確認し、「うん、完璧な壁だね!」「すごく格好いいフォームだよ!」と、具体的に褒めてあげることが、子どものモチベーションを高めます。
[5] 【ステップ3:実践ドリル編】恐怖心を自信に変える、段階的ショートバウンド捕球練習

心の準備と基礎フォームが身についたら、いよいよボールを使った実践的なドリルに移ります。ここでも重要なのは、焦らず、簡単なことからスモールステップで進めていくことです。一つひとつの「できた!」という成功体験が、揺るぎない自信を育てていきます。
[5-1] まずは「膝立ち」から。自分のペースでショートバウンドに目を慣らすセルフ練習
いきなり立った状態から始めるのではなく、まずは両膝を地面についた「膝立ち」の状態からスタートします。この姿勢は、下半身の動きが制限されるため、上半身の使い方とボールの軌道に集中できるというメリットがあります。
【練習メニュー例】
- セルフ・ショートバウンドキャッチ: 膝立ちの状態で、子ども自身にボールを真下に投げさせ、ショートバウンドで捕球させます。最初は柔らかいボールから始め、慣れてきたら軟式球に移行します。
- 自分のペースでコントロール: この練習の最大の利点は、ボールの強さやバウンドの高さを、子ども自身がコントロールできることです。「これくらいの強さなら怖くないな」「このタイミングで捕ればいいんだ」という感覚を、自分のペースで掴むことができます。
親は横から、「そうそう、うまい!」「ボールをしっかり見れてるね!」とポジティブな声かけに徹しましょう。この一人でできる練習は、親がいない時間でも自主的に取り組めるため、上達のスピードを加速させます。
[5-2] 距離と球速をコントロール。「できた!」を積み重ねる親子での対面練習
セルフ練習で感覚を掴んだら、親子での対面練習に進みます。ここでの親の役割は、息子が10回中8〜9回は成功できるような、絶妙な難易度のボールを投げてあげることです。
【練習の進め方】
- 近距離・下投げから: まずは3mほどの距離から、下投げで緩やかなショートバウンドを投げてあげます。必ずキャッチャーの正面に、捕りやすいボールを投げることを心がけてください。
- 成功が続いたら、少しだけ難易度アップ: 連続で成功するようになったら、「次はもう少しだけ速いボールに挑戦してみるか?」と声をかけ、少しだけ球速を上げます。あるいは、少しだけ左右にずらしてみます。
- 失敗したら、すぐに難易度を下げる: もし子どもが失敗したり、怖がる素振りを見せたりしたら、ためらわずに一つ前のレベルに戻してあげましょう。「OK、OK!今のボールはパパのコントロールが悪かったな。もう一回簡単なやつから行こう!」と、失敗の原因を親が引き受けてあげるくらいの気遣いが大切です。
この練習は、野球の技術練習であると同時に、親子の信頼関係を深めるコミュニケーションの場でもあります。
[5-3] 左右に振られたボールに強くなる!一歩先の動きを身につける応用練習
正面のボールを安定して止められるようになったら、最後のステップとして、左右に振られたボールへの対応力を養います。
【練習メニュー例】
- 左右へのボール出し: しゃがんで構えている子どもの左右、一歩で届く範囲に、ショートバウンドのボールを出してあげます。
- 「手→足」のリズムを意識: この時、ステップ2で練習した「手→足」のリズムを思い出させます。ボールが来た方向に、まず手を伸ばし、それに身体がついていくように動きます。
- 壁の角度を意識させる: 右に来たボールは少し三塁側に、左に来たボールは少し一塁側にボールを落とせるように、身体の「壁」の角度を調整するようアドバイスします。「ボールがピッチャーの方に転がるように止めてみよう」と具体的な目標を示すと、子どもはイメージしやすくなります。
この応用練習がスムーズにできるようになれば、試合での突然のワンバウンドにも、自信を持って対応できるようになっているはずです。
[6] 【技術応用編】ワンランク上のキャッチャーを目指すための3つの視点
ここまでのステップで、ショートバウンドへの恐怖心はかなり薄れ、基本的なブロッキング技術は身についているはずです。最後に、さらにワンランク上の、投手から「お前がキャッチャーで良かった」と信頼される存在になるための、3つの意識改革についてお話しします。
[6-1] 意識改革:「ショートバウンドは怖いボール」から「最も捕りやすいボール」へ
野球界には古くから、「ゴロはショートバウンドで捕れ」という格言があります。これは、内野手だけでなく、実はキャッチャーにも当てはまる真理です。
ボールのバウンドは、地面から跳ね上がった直後、つまりショートバウンドの瞬間が、最も軌道の変化が少なく、予測しやすいタイミングなのです。中途半端な高さのハーフバウンドが、最も不規則な変化をする可能性があり、捕球が難しくなります。
この事実を子どもに伝え、「ショートバウンドは、実は一番安全で、一番捕りやすいボールなんだよ」と教えてあげてください。この意識改革ができると、ボールを待って捕るのではなく、自らショートバウンドのポイントに入って捕りにいく、という積極的な姿勢が生まれます。「怖いボール」から「得意なボール」へ。このメンタルの変化が、プレーに絶大な安定感をもたらします。
[6-2] 受け身は終わり!自ら動いて「捕りやすいポイント」を作り出す積極的捕球術
意識が変われば、動きも変わります。優れたキャッチャーは、ただ飛んできたボールに反応するのではありません。投球の軌道を予測し、自ら足を動かしてボールとの距離感を調整し、自分が最も捕りやすい「ショートバウンドのポイント」を能動的に作り出しているのです。
これは一朝一夕で身につく技術ではありませんが、「ただ待つのではなく、自分からボールを迎えに行ってみよう」と声をかけ続けることで、子どもの意識は少しずつ変わっていきます。フットワークを使い、常に最適な捕球ポイントを探す。この探究心が、キャッチャーとしての成長を加速させます。
[6-3] 「止める」で満足しない。捕球から送球へ、プレーの質を高めるための次の一歩
ブロッキングは、ボールを止めて終わりではありません。その後のプレー、つまり、ボールを拾ってランナーを刺すための「送球」までが一連の流れです。
ボールを自分の身体の前に、できるだけ近くに落とすことができれば、それだけ素早くボールを拾い、次の送球動作に移ることができます。
「今のブロッキング、完璧だったね!じゃあ次は、止めたボールを拾って、セカンドに投げるフリまでやってみようか」
このように、常に次のプレーを意識させることで、練習の質は格段に上がります。ボールを止める技術が、単なる守備技術から、チームを勝利に導くための戦略的なプレーへと昇華していくのです。
[7] まとめ:技術の前に、親子の信頼関係こそが最高の成長エンジン

この記事で紹介した練習法は、決して特別なものではありません。しかし、一つひとつのステップに共通しているのは、「子どもの気持ちに寄り添い、安全な環境でスモールステップを繰り返す」という原則です。
息子がショートバウンドを怖がっていたあの頃、私は焦りから技術ばかりを押し付け、彼の心を置き去りにしていました。しかし、ある日、練習後に「パパとやる野球、前より楽しいよ」と息子が言ってくれた時、私は自分の間違いに気づきました。私がすべきだったのは、完璧な技術を教えることではなく、息子が安心して失敗できる場所を作り、何度でも挑戦できる勇気を与えることだったのです。
野球の技術は、心の土台が安定して初めて伸びていきます。焦らず、比べず、あなたの息子さんのペースを何よりも大切にしてあげてください。親子の対話を楽しみながら練習を続ける先に、捕逸を恐れない、投手から信頼される立派なキャッチャーの姿がきっと待っています。安全な野球の普及を目指す全日本軟式野球連盟の指針も参考に、親子で野球を楽しんでいきましょう。